番号72

 僕の部屋に戻るまでに、コンビニに寄ったのはそれなりに理由がある。

 まず市の中心へと向かう大通りを行き交うバスを利用することになるので、いち早く隠居所から遠ざかることが出来ること。


 だからこそ大通りにバス停があるので、コンビニに寄るのも簡単だ。

 現金が乏しくてもコンビニならスマホがあれば買い物できるし、それなら少しは準備したいものもある。


 エナドリとか、一応の救急用の医薬品。

 あとは甘いものとか。これはトマさんが欲しがった。


 三大欲求の一つ、食欲が復活したことで、ある意味では明け透けになったのだろう。ずっと追い詰められていたみたいだったトマさんがレジの前辺りから、いきなり饒舌になったのだ。


 大通りから僕の部屋までは、少し距離があったんだけど、その道中、


「うるさい!」


 なんて、怒られるんじゃないかと心配するほどに、トマさんは元気だったのだ。

 そのまま僕の部屋に辿り着いて、まずはいったん落ち着こうとはなったんだけど、トマさんの口は落ち着かなかった。


 トマさんも、何をどう伝えれば良いのかわからなかったんだろう。

 まさに、とりとめもない、を絵に描いたような有様だったんだけど、要約すると、


 ――あたしはどうしてもトマソンが気になる!


 ということになる。

 まとめてしまうと実に短いけど、そういうことになるだろう。


 トマさんが隠居所から出ていこうとしたのも、それが理由だったようだ。

 確かにずっと隠居所にいたのでは調べられないわけだけど……


 でも、おかしな連中が確かにいて、実際にその姿を見ているのに、どうしてそういう判断になるのだろう?

 トマさん、もしかしなくても本当にどこかおかしい?


 でも、自分がおかしいっていう自覚があるから、こんな風に一生懸命言葉を尽くして僕に説明しようとしてくれていると言う考え方も出来る。


 多分……トマさんは自分でも怖がっているんだ。

 明日には病院に行くとして、とりあえずは僕の部屋で休んだ後の方が良いのかもしれない。


 この部屋に留まることは危険だろうって思ってたんだけど、今最優先事項はトマさんに落ち着いて貰うこと。

 そういう方向に僕が計画を直していると――


 ――チャイムが鳴った。


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