番号65
駕籠市に何が起きているのか?
佐久間さんがそれを説明するにも、僕達がどこまで事情を知っているのか?
それを確認しないことには、あまりに非効率。そこですりあわせを行い、まず佐久間さんは駕籠屋十善さんとトマさんの間の交流について、より詳しく知っていた、ということがわかった。
蔦葛さんから話を聞いていたときも、何か中途半端だなぁ、とは思っていたけど、よくわからなかった二人の交流の中心には駕籠市のトマソンがあったというのだ。
駕籠屋さんが話題を探すときに、まずトマソンの話から始めるという具合に。
それだけでも、駕籠屋さんの不器用振りが窺えるわけだが、幸か不幸か鶴城美穂――トマさんも、社交辞令抜きでトマソンに興味を示したということだ。
結果二人の交流は順調だったらしい。
トマさんのトマソンへの執着ぶりは、元々からあったのか、と納得。
そのトマさんは胸元のウサギをいじくりながら、昨日ほどはショックを受けていないようだった。
なんとか折り合いを付ける事が出来るようになっているみたいだ。
トマさんの様子を見て、僕はさらに踏み込んでみた。
「それなら駕籠市に来て貰っても良かったのでは? 今は大学生みたいですし駕籠大もありますし」
「それは、危なかったんです。千馬さんがいますからね」
蔦葛さんの推測通りの答えが返ってきた。やっぱり千馬という人物はよほどの厄介者らしい。
蔦葛さんを思い出せたので、そのついでに佐久間さんに連絡が入ってないか? と聞いてみると首を横に振った。
「十善さんがお亡くなりになって、急逝でしたから随分バタバタしてまして」
「ああ、それは……」
僕は言葉を濁しながら頷いておいた。
無理も無い話だ。
そして佐久間さんの話は、さらに続いた。
「十善さんが千馬さんが簡単に相続出来ないように動いていたんですが、急にお亡くなりになったので、その遺志を示した遺言状がどこにあるのかわからなくなってしまっていて……このままでは普通に千馬さんが引き継ぐことになります」
それはヤバそうだな。
「そして十善さんが残した走り書きやメモから、問題の遺言状がトマソンに隠されている、と。当人は置いてきた、みたいな感覚のようですが」
「はぁ? どうしてそんな事に?」
「それは……鶴城さんを責めるつもりは全くありません。ただ、十善さんが話のきっかけとして、そういういたずらを仕掛ける可能性はないとは言えなくて……」
駕籠屋一族は基本的に厄介者なのか?
いや、待てよ。そうだとすると……
「トマソンを巡る事自体は正しかった……?」
「それは私も驚いています。元々は鶴城さんにお願いしていたんです。心当たりのあるトマソンを調べてほしいと。葬儀にご出席いただくつもりでしたから、それと合わせて、という感じで」
なるほどそれで全部が繋がった。
トマさんは……難しい顔をしている。やっぱり思い出せないようだ。
ただそれでも、トマソンを巡って遺言状を探す。
それだけはしっかり覚えていたようだ。
十善さんとの交流がトマさんにとっても大切なことであることが伝わってくる。
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