番号64

「それはそうかも知れません。それにこのトマソンには他にも不安な点がありまして……」


 新しすぎてダメなのでは? という僕の意見を後押しするように、さらに佐久間さんが告げた。


「それは?」

「私共も現地を確認する余裕が無くて確実とは言えないんですが、画像で確認する限り遺言状を隠せるような場所が無い」


 あ……それはそうか。

 何しろトマソンと言ってもただの壁であることも間違いない。


 遺言状とか、それに類する書類がどんなに薄くても、ただの壁では隠しようがない。これはますます望み薄か?


「ただ、それだけに現地に行って確認してほしくはあるんですよ。行ってみればすぐわかることを見逃している可能性もあります」

「いいよ。どのみち全部回るつもりだったし」


 佐久間さんの訴えに、トマさんがすかさず了承した。

 確かに、このトマソンだけを候補から外すのも変な感じだしな。僕もトマさんに続いて了承した。


 すると佐久間さんが、改めてトマさんに話しかけた。


「……鶴城さん。この原爆型トマソンを観て何か思い出せませんか?」

「それは……」

 

 改めてトマさんは原爆型トマソンの画像をじっくりと見つめた。

 胸元のウサギを指先ではじきながら。


「佐久間さん?」

「このトマソン、発見されたのが最近なんです」


 僕の尻上がりの呼びかけに、佐久間さんは「わかってますよ」と言わんばかりに説明を始めた。


「ですから十善さんはきっと、鶴城さんとこのトマソンについて話している思うんですよ」


 トマソンで交流の糸口を探していたという駕籠屋さん。

 確かにその可能性はあるか……


「であれば、鶴城さんの記憶の中でも新しい記憶になるかと思うんです。これはきっと記憶を取り戻すきっかけになるのでは、と」

「つまり……遺言状を探すよりも、むしろそっちが本命ですか?」

「記憶を無くされているとは考えていませんでしたが、このトマソンが発見されたのも――」


 運命のようなものを感じる。

 佐久間さんは、そう続けたかったのだろう。さすがに実際に口に出すのにはためらいがあるとしても。


 僕は佐久間さんから目をそらし、トマさんを見る。

 トマさんはますます原爆型トマソンを目を凝らして見つめているが……あまりピントは来ていないようだ。


 やはり実物を確認する必要はあるようだ。


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