番号62

「じゃあ組み分けも決まったし、具体的な話をしよう。まずは市の北東側にあるトマソンだな」


 そして英賀先輩がノートを広げ、簡易的な市の形が描いてるページを広げた。

 そこに位置関係を思わせるように広げたノートの右半分――そこにプリントアウトされたトマソンを置いてゆく。


 それをざっと眺めてみると――壁際にあって階段がそれに平行に上がったり下がったりしている。見るからに無意味な建造物だ。

 トマソンとして基本的なものかもしれない。


 次に目に入ったのは、橋の欄干に隣接しているスロープだ。だけどどうやってそのスロープに入っていけば良いのかわからない。

 橋に寄り添っているだけ、というか橋の切れ端に思える。間違いなくトマソンだ。


 それで――


「あれ? もう写真アップされてるんですね。割と最近“ああ”なった気もするんですけど」

「公園の奴な。でも確かに空中階段トマソンだからな」

「単純に市の行政失敗に思えるけどね」


 と、部長がキツいダメ出しをするけど、この際それは置いておこう。


「で、南側な。多分まだ、トマさんが回ってない未知のトマソンだ。ルート的には南に回って、市の西側を北上していく感じだ」


 そう言いながら英賀先輩がノートの左半分に写真を置いてゆく。

 一番南に置かれた写真は、有名なトマソンだった。何しろ誰も使わない、電車も止まらない路面電車の駅なのだから。


 その駅が存在することだけで、ちょっと不思議な気持ちになる。


 そこから北上すると、普通の家を跨ぐように設置されたハシゴだ。

 多分これは市の失敗ではない気がする。というかトマソン狙いでわざと作ったんじゃ無いだろうか?


「これもそうなんですか?」


 僕と同じ疑問を持ったのだろう。トマさんが、ハシゴの写真を指さしながら、英賀先輩に尋ねた。


「ああこれは……なんだったかな」

「それは、その家の向こう側にビルがあるのよ。三階建てぐらいの」


 記憶があやふやな英賀先輩に代わって部長が説明してくれるようだ。

 

「これだと、角度が悪くて写ってないけどね。で、そのハシゴはそのビルから出てるの。何故かその後に家を合わせるように建てちゃったみたいね」


 どうにも、ズルな気もするけど、そうとなれば一応トマソンの範疇になる……のかな?

 

 そしてこのトマソンを眺めながら北へ進むと、割と大学がっこうの近くになるな。だから全然知らないわけではないんだけど――


「やっぱり、あの歩道橋はトマソンですか」

「そりゃあな」


 呆れたように英賀先輩が答えてくれるが、学校近くの歩道橋は実は歩道橋としての意味を為さない。

 何しろ歩道橋に設置されて然るべき階段が両端とも無いのである。


 台の上に平らな板が乗っているだけ、とも言えた。

 もちろん誰も板の上には登れない。本当に無用の長物だ。


 これらが南側ルートのトマソン達になる。

 さて、僕とトマさんはどちらのルートを回ろうか?


・記憶の探索も大事だ。ここは北側の過去のルートで。番号7へ


・何だか……トマさんの圧を感じるな。南側の未知のルートで。番号35へ

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