番号60

 何が原因なのかと問われれば、スニーカーを探し出して履くのに手間取ったとしか言い訳のしようがない。

 トマさんはその辺り、スムーズに行うことが出来たようだ。


 それでも玄関から出た辺りで、トマさんの肩に手をかけることは出来たんだけど、そこから抵抗に遭ってしまう。

 彼女も何らかの理由があって出ていこうとしてたんだから、それは無理もないことだったのかもしれないけど。


「トマさん、どうしたんだよ!?」

「あ……あたし、こんな場所に閉じ込められるわけにはいかないの!」


 閉じ込められる?

 トマさんは何を言ってるんだ?


 そんな感じで玄関前でもたついてしまっているうちに、また予想外の出来事が起こったんだ。


 どこから現れたのか? というか、どやって隠居所に忍び込んだのか、黒ずくめの人影が攻撃を仕掛けてきたんだ。

 それも二人。


「え? え、何!?」


 トマさんが驚きに声を上げた。

 僕はトマさんを庇いながら、何とか黒ずくめ達からは距離を取ったんだけど、驚いてるのは僕も一緒だ。


「お、お前達は、な、何だ!?」


 と、声を上げるだけで精一杯。

 もちろんそんな事で黒ずくめがいなくなるわけもなく、腰を落として僕達を追い詰めようとしている。


 いや、このまま隠居所に戻ってしまえば――


「――お前達は脱出しろ」


 その時、真逆の指示を出しながら飛び込んできたのは――卜部先輩?

 手には麺棒みたいな長い木の棒を持っていた。もしかして製図用のキャリーケースにはそれが入っていたのか?


 いや、それよりも脱出しろと言うのは――


『――この家も安全じゃなくなったんだ。卜部が気付いてくれて、今は何とかなってるが』


 ドローンが卜部先輩の上で浮かんでいた。

 そのドローンから英賀先輩の声が聞こえてくる。


『ほら、お前のスマホやら鍵、それにこの市のトマソンを新たにまとめてピックアップした奴が入ってるUSBだ。あんまり有名じゃない奴も集めている』

「そ、そんな事を……」

『受け取って早く逃げろ。この隠居所も安全じゃなくなったんだからな』


 そ、そうか!


 僕はドローンが持ってきた僕の私物、それにUSBを受け止めながら、同時に今の状況を理解した。


 確かに隠居所の敷地内にまで侵入者がいるのなら、どこから入ってくるのかわかったものでは無い。露天風呂とかあるわけだしな。


 多分、千馬って奴の手下なんだろうけど――


「行け!!」


 卜部先輩が吠える。


 それを合図にして僕とトマさんは飛び跳ねるようにして、蔦葛さんの隠居所を後にした。


                 ◇

 

 そこから坂道を転げるようにして、なんとか住宅街を抜けることが出来た。

 いや、抜けてしまって良いのだろうか?


 とりあえず追ってくる人影はない……と思う。

 そこがはっきりしないのなら、やっぱり住宅街に留まることは危険だったのかもしれない。


 じゃあ、これからどうするのか?

 幸い、交通機関が完全に止まるような時刻でも無いし、英賀先輩のおかげでスマホは持ち出すことが出来たので文無しでもない。


 後はどこに行くべきなのか――土地勘のないトマさんに判断させるのは無茶だ。

 それでも僕達は相談して……


・市の外に向かおう。USBのこともあるし、ネカフェだな。番号99へ


・USB確認もあるから僕の部屋に向かうにしても、色々足らない。まずはコンビニへ。番号72へ


・僕の部屋に直行。番号29へ

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