番号59

 僕がそんな風にまごついて、改めて覚悟を決める前に、部長が話を先に進めてしまった。もしかしたらこっちの報告が本命なのか?


「――で、ポーチを回収できて、ああそれも英賀のドローンがやったのよ。随分便利ね、ドローン。で、こうなると予定されていたトマソンにも何かあるかもって思ったんだけど……」


 早口ではあるけれど部長の言っていることはよくわかる。

 期待が高まる心理も含めて。


「卜部が視線を感じた」


 英賀先輩が先を続けた。

 思わず卜部先輩に視線を向けると、先輩は重々しく頷いた。ただそれだけでは説明不足だと気付いてくれたようだ。そのまま続けてくれる。


「そのポーチを拾ってからの事だと思う。俺たちが欄干のトマソンに向かおうとして、大通りに出たところで視線を感じた。もしかしたらずっと前から監視されていたのかもしれない」

「監視? え? なんでそんな話に……ただトマソンを調べていただ……け……」


 自分の声が尻すぼみになってゆくのを感じた。

 確かに僕達は調べていただけ。なんなら調査になっているのかも怪しいぐらいおざなりに。


 だけどそれを端から見ていたらどう思うだろう?

 随分怪しく見えたんじゃ無いだろうか。


 それに何より、調査を始めたと思われるトマさん――記憶をなくす前のトマさんは……


「公園の階段から落ちたのよ。これは確実だってことが判明したわ。それと合わせて卜部が気付いた視線、それが監視だったとするなら……」


 僕が言葉に出来なかった部分を部長が形にしてしまった。

 そしてその懸念は、否定することも出来ない。


 トマソンをめぐってのことかはわからないけど、トマさんが何者かに監視されている? いや、ポーチを手にれてから監視が始まったとするなら――


 僕は思わずトマさんを見遣ってしまった。

 彼女の顔から血の気が引いている。なにしろ自分自身、あるいはトマソンまつわるものが監視されている可能性が出てきたのだ。


 そして記憶を失ったトマさんでは、それに対処するのも難しいだろう。

 かと言って僕達もどうすればいいのか……


「――よし! ここはお爺さまに頼りましょう。何だか市に関係しているっぽいしね。協力して貰えると思うわ」


 そんな追い詰められた状況で、突然部長が告げた。


 お爺さまって……一体何のことだろう?


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