番号29
もちろん、ずっと僕の部屋に留まるつもりはない。
まずは現金を拾い集めて、USBの中をざっと確認。
もしかしたらUSBの中には英賀先輩からのメッセージが入ったテキストデータが入っているかもしれないし。
そういう計画でまずは僕の部屋に向かうことにしたわけだ。
幸い英賀先輩は財布も届けてくれていたんだけど、昼のトマソン巡りでかなり中身が少なくなっている。それがどうしても不安になるんだよね。
スマホで払える場所も増えたけど、やっぱり現金がないと……
とにかく僕達は路線バスに飛び乗って、なんとか僕の部屋の近くのバス停にまで辿り着くことが出来た。一番近くではないんだけど、そこまで上手くはいかない。
そしてバス停に着くまでの間に、トマさんとゆっくりした時間を過ごせたことは良かったことだと思う。
誰もいないバスの中、僕達は横並びに腰掛けて視線を交わさないままだったけど、話をすることは出来たのだから。
「……英賀先輩は……多分、千馬という奴が大人しくなったら、またトマソン巡りをすることになるって、トマさんを元気づけようと考えてくれてたんだろうな」
英賀先輩が渡してくれたUSBの中身。
それが本当にトマソンについてなら、きっとその理由はこれだ。多分、励ます相手としてはトマさんだけでなく部長も含めてのことだと思うけど。
トマさんが身じろぎする気配。
そのまま黙り込まれるかな、と思ったけどトマさんがボソリと呟いた。
「……あたし……やっぱりトマソンが気がかりで」
「あの隠居所に行くまでは卜部先輩の感じた気配だけだったけど、実際に怪しい連中がいることが確実になっても? それに千馬って奴がいるってことも教えて貰っても?」
それでもトマソンにこだわるのは何だか変な気がした。
例えばUSBの中身は英賀先輩がドローン越しに教えてくれたんだから、それで隠居所を抜け出そうとした――実際に抜け出した理由を隠すために、トマさんがそういう理由をでっち上げた。
……その可能性の方が高いって僕は思ったけど、それでもとにかくトマさんに何かしら動く理由があることは確実だろう。
ただそれ以上は、ちゃんと落ち着ける場所に辿り着いてからだな、と僕はそれ以上の追求はやめておいた。
とにかく、そこから先は後回し、って思っていたんだけど……
今、僕達は大きめのバンに押し込められている。
もう少しで部屋に辿り着ける、と言うときに捕まってしまった。
あっという間に後ろ手に縛られて、口元を抑えられて。
そして押しつけられた布からは何かの薬品の匂い。
これは……
「――まったく助かったぜ。こいつらなんで蔦葛のジジイのとこからで来たんだ?」
「――知るかよ。おかげで簡単になったじゃねぇか」
……え?
隠居所の襲撃にこいつらは関わってはいないのか?
これは……いったい……
・番号110へ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます