番号17

 部屋に戻れば戻ったで、それなりの儀式が必要になる。


 まず最初にエアコンのスイッチを付ける。あちこちから集まってきた本を片隅に積み上げて、スペースを作る。それから座布団を用意して、冷やしてあったお茶を自分の分も含めて、テーブルに用意した。


 その間、「彼女」は小さくなりながら部屋の中を見渡すという器用なムーブを見せていたが、エアコンから流れ落ちる冷風に引き寄せられていた。


「ふぅ~、助かったわ。何だか、あたし危険な状態だった気がするの」


 エアコンの前で胸元に冷風を流し込む「彼女」。

 その無防備な仕草は確かに危険だ。というか、そういう意味では無く普通に危険な状態だと思う。何しろ「彼女」は記憶が喪失状態なのだから。


 決して過去形にして良い状態では無いと思うのだが……


 とにかく、事態がこうなってしまった以上、そこにこだわっても仕方ないだろう。

 何とか前向きに話を進めなくては。


 僕はテーブルの前に腰を下ろし、それに連れて「彼女」も僕の前に腰を下ろす。

 どうやら「彼女」もまた前向きではあるらしい。そんな決意が、ひそめられた彼女の眉から伝わってきた。


「さて……」


 僕はそんな風に切り出した。


「やっぱり最初は君の記憶の手がかりを探すべきだと思うんだけど、とりあえず身に付けている、手がかりになりそうな物は確認した?」


 まずは定番を確認してみる。

 小説で正体不明の死体の身元を確認する時の手順を参考にしたとは、口に出さないでおいた。


 そんな僕の質問に「彼女」は小さく頷いて返答する。


「ああ、財布とかよね。あたしもここに付くまで確認してみたんだけど……」

「持ってなかったんだ」

「うん。手ぶらはおかしいって思うんだけど、原因がわからないのよね」


 そういうことになっちゃうか。

 僕は首を捻って、なんとか次の質問をひねり出してみる。


「それじゃあ……なんとか今の状態で手がかりを見つけるしかないか。何か思い出せることは無い? 引っかかってる言葉とか」


 僕がそう尋ねると「彼女」は驚いたように目を見開いた。そしてこう告げる。


「君、凄いね」

「凄い?」

「うん。まさに、ずっと頭から離れない言葉があるの。それは多分、言葉だと思うんだけど……」

「どんなの?」

「それはね……“トマソン”」

「トマソン?」


・トマソンについて検索してみる 番号66へ


・なるほど、あのおかしな滑り台か 番号42へ


・それはともかく倒れていたことも問題だ 番号31へ

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