番号12

「わぁ、すごいね! こういうのもあるんだ」


 僕の自制心に挑戦するかのように、トマさんはさらに体を寄せてきた。

 風呂上がりの香り、それに湿度が僕を包み込む。頑張ってくれエアコン!


 モニター上では画像検索の結果が並べられており、トマさんは所々クリックしては「見た……覚えがあるような……」と、なかなか重要なことを呟いてはいるのだが!


 ええと、僕はどうすればいいんだっけ?

 トマさんへの聞き取りをすべきなのか?


 これから先輩達――はダメだろうな。あの後、ハシゴしてる可能性もある。

 というか僕だってシラフとは言い難い状態だ。となると、それを心に留めて……


「……ごめんね」


 僕の思考が真っ当な道に復帰しつつある中で、モニターに映るトマソン画像をスライドさせながら、トマさんは小さく呟いた。


「あたし、自分の名前も思い出せないけどさ。何だかおかしな判断してるのは、わかってるのよ」

「おかしな?」

「よくわからない、男の子の部屋に泊まりたいって判断」


 と、トマさんは尻上がりのアクセントで、そう僕に宣言した。

 そうだったのか……確かに、今の状況はおかしいとしか言い様がないよなぁ。


「でも、あたしはこれが正しい気がするの。……じゃなくて、部長さんと一緒に行くのがいやだった。それが正しいんだとはわかってのに。つまり……つまり、あたしは君と一緒にいたかったみたい。記憶が無いから、どうしてこう思うのかわからないんだけど」


 突然、トマさんは畳みかけてきた。

 というか、言葉が溢れ出てしまっている。ただその視線だけは真っ直ぐに僕を見ていた。


 僕はその視線を受け止めきれず、


「……そうか……そうだね。あ、あの~、それじゃあ、きょ、今日はもう寝ようか?」


 と、あやふやなことを口にして誤魔化してしまった。

 いや、これは誤魔化してるってことになるのかな? それすらもはっきりしない。


 そしてトマさんも、僕の誤魔化しに返答する。


「……そうだね。やっぱり疲れちゃったみたい。いきなり眠くなったよ」

「ああ、布団は二組はあるはずだから。エアコンつけっぱなしで……大丈夫かどうかはわかないのか」

「とにかく暑いのはイヤだと思うよ」


 こうして僕たちは眠るための準備に取りかかった。


・番号76へ

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