番号9

 さて、トマさんの現状についてはもう知らせてある。

 トマさんが記憶喪失であること。それに連れて「トマさん」という名前で呼ぶことになった事。


 それからもちろん「トマソン」についてだ。

 先輩方は、みんな「トマソン」については知っていたので、改めて説明する必要は無かった。


 ただ、トマさんの「トマソン」へのこだわりというか、そういうものについては、やっぱり直接会わなければ伝わらないものなのだろう。


 お酒の力を借りることで、その辺りの説明も上手くやれたと思う。

 緊張がほぐれたことと、食べたり飲んだりというような“何かをするついで”という状態が良い感じに、深刻な雰囲気を中和してくれた気がするからだ。


 僕とトマさんはサワー系の飲み物を注文して、二人がかりで先輩方に説明する。

 フライドポテトや唐揚げという定番の食べ物の油が、唇の潤滑油になった可能性もあるな。


 そうして一通り説明が終わったところで、まず英賀先輩が教えてくれた。


「トマソンか……確かに駕籠市はトマソンが多いんだよな。観光名所用にわざと作ってるんじゃ無いかって言われるほどだ」

「そうなんですか!?」


 僕は驚いて声を上げてしまった。

 うちの市にそんな話があるなんて初めて聞いたからだ。


 何となく卜部先輩を見てみると無言で頷いている。工学部の学生の間では有名なのかもしれない。


「そうなのよ。確かそれで調べたりもしたわね。結局、暇つぶし以上にはならなかったけど。トマソンって、元々そういうものだしね」


 部長のこの証言にも驚くべきなんだろうけど、トマソンを調べようなんて言うのは、確かにうちのサークルっぽい。


 現実の謎を追って推理するのが、うちのサークルの主な部活動だからだ。

 僕が入る前に、そういったことをやらかしていても不思議は無い。僕は何となく納得していた。


「そ、それじゃ、トマソンがこの付近にたくさんあって、その場所もわかってるって事なんですね!」


 二人の証言から導き出される当然の結論に、トマさんは興奮しながら確認した。

 完全にトマさんの腰が浮いている。


 そして部長はそんなトマさんを落ち着かせるのでは無く、逆に煽るようにこう返した。


「そう。この市にはトマソンが多い。つまり、トマソンにこだわりがある貴女――トマさんが、現れた事もそれが理由だと考えられるわ」

「あ……」


 トマさんがその指摘に呆けたような声を上げるが、僕も同じ気持ちだ。

 確かに部長の言うように、トマさんのこだわりと、駕籠市は何か関係があるように思えたからだ。


 それはきっとこういうことだ。つまり――


「整合性があるわけだな」


 と、英賀先輩が良いところを持って行ってしまったが、そういうことだ。


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