番号8
「それじゃあ、そっちの報告に行くか。まずはこれを見てくれ」
僕の声を合図に、英賀先輩が隣の椅子に載せてあった思われる“何か”をテーブルの上に出した。
何か――それはどうやらウエストポーチみたいだ。
これがなんだろう? と僕が呆気にとられていると傍らのトマさんから「あ」と声が上がった。
即座に英賀先輩が続ける。
「やっぱりトマさんのだったか。これはトマさんが倒れていたっていう公園。そこに残っていた空中階段のてっぺんにあったんだよ」
「え? 登ったんですか?」
「いやドローンで確認した。回収もドローンでやった。安全にやったから安心してくれ」
英賀先輩はそう言うが何かズレている気もする。
いや、その前にもっと早くに気付くべきだったと後悔するべきなのか。
「まぁ、トマさんのポーチだってのはわかってたんだけどな。先に中を確認させて貰ったが……」
英賀先輩がポーチを開けて、慣れた手つきでカードを引っ張り出した。
そのカードは……学生証? そしてそこに貼り付けられている写真は確かにトマさん顔が写っている。
ということは――
「
「どうかしら? 思い出せる?」
学生証があるのだし写真も同じだからトマさんの名前は「鶴城美穂」で決まりなのだろう。
だけどトマさんは……
「う、う~ん……」
「ピンとこない?」
「はい……すいません」
と、恐縮するだけで記憶が復活した、という様子ではない。
……いや、もしかしたら……
そのあとポーチにはスマホも入っていたので、なんとか中を見ようとするんだけど暗証番号は当たり前に思い出せない。
指紋をあてても解除されることはなかった。
どうもこれ以上は専門的な知識が時間が必要なんだろう。
それでもトマさんの名前が判明したことは、確かに言い報せだ。
それは間違いないんだけど……
「それでね、その学生証にある学校を調べてみたの。そうしたら結構遠くにあるみたいなのよね。その辺りも思い出せない? 駕籠市に来るまでとか……」
「ええと、ちょっと待って……」
トマさんは部長の声を遮って、眉を寄せる。
何を思い出せば良いのか具体的になったわけだから、もしかして上手くいくかもしれないな。
しかしトマさんはそんな遠くからわざわざ駕籠市に……?
何だか色んな事が怪しく思えてきた。
これは……あんまり良くないよな。
「――ごめんなさい。やっぱり思い出せないみたい。学生証は確かにあたしのものだとは思うんだけど……」
「わかったわ」
部長がトマさんに短く応じる。そして――
「――それじゃやっぱり、お爺さまを頼りましょう。それが一番だと思うから」
お爺さま? 部長がいきなりお嬢様みたいな言葉遣いになったけど……誰のことなんだ?
部長は戸惑う僕には構わず、トマさんに「このまま“トマさん”って呼んでも良い?」と確認している。
その確認も必要だとは思うけどさぁ。
部長の申し出に、笑顔で頷くトマさん。
やっぱり「鶴城美穂」って言う名前に違和感があるのだろう。
いや、これも……
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