番号2
学食に戻ると、すでにテーブルの上には何枚もの写真が広げられていた。
先輩達は早めに回り終えていたようだ。しかしこの枚数は……
「さすがに路面電車の駅の辺りでは使えなかったけどな。ドローンで色んな角度から撮影することが出来た」
なるほどそういうことか。英賀先輩が持っていたバッグの中にはドローンが入っていたんだな。
いや待て。あの空中ハシゴがある場所は住宅街だったはず。あそこでドローン飛ばすとマズい気がする。
いや、そもそもドローンはどこでも飛ばしてはいけないような……
そんな風に僕が何と答えようか迷っている間に、部長が空中ハシゴについて説明してくれた。
僕の視線がその写真で止まっていることで、気を回してくれたらしい。
「ドローンで改めて撮影している間に、改めて聞き込んでみたの。市の調査の振りをして」
振りをしてって……先輩達はドローンを堂々と飛ばすことで、逆にそれを利用したらしい。
卜部先輩なんか製図用のキャリーケース背負ってるしな。それもまた業者に見えたのかもしれない。
いや僕の推測よりも先に部長の話を聞くべきだな。
「それでどうでした?」
「それがね。この家の前の持ち主と裏手のビルの持ち主は同じだったみたいなのよね。それで横着に出勤しようとしたみたい」
「はぁ? そんな無茶な」
「そう無茶な話。結局、ハシゴは使われること無く放置されたのよ」
それは……トマソンになるのかもしれない。
無用の長物ではあるしな。
「でも、それが正しいのかはわからないぞ。結局ご近所の噂話だからな」
僕が頷いていると、英賀先輩がそんな風にフォロー――なのだろう――を入れた。
何だか都市伝説みたいな話になってしまったようだ。それもまたトマソンについて回るものかもしれない。
そしてトマさんは、ただ浮かんでいるだけの使いようが無い歩道橋の写真をじっと見つめていた。
やっぱり、あのトマソンが本命なんだろうな。
それにドローンでの撮影だから、下から見上げる写真だけでは無く、恐らく何年と誰も入ることが出来なかった歩道橋の上も撮影できたって事だからな。
これはなかなか貴重だ。
さて、トマさんは……
「……う~ん、凄く珍しい写真だってことはわかるんだけど……それは珍しいって言う理屈がわかるだけで、写真自体には何も感じないわね」
ダメだったらしい。
まぁ、確かに写真だけを見たら、ただの道が写っているだけだ。それも小汚い。
もちろんそこから視線を巡らせれば、どうやってこの歩道橋を使うんだ? っていう疑問は出てくる。
でも最初からトマソンであることを知っている僕達にとっては、驚きも何も無い。
トマソンがトマソンである事が確認出来ただけだ。
となると――
「何が見つかれば良いのか」
卜部先輩がボソリと呟いた。
重低音で。
やっぱりそうなるよなぁ。
どうも僕達は勢いだけで肝心な部分を見失っていたようだ。
もっと準備を……いや目標をキチンと見据えるとか……
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