トマソンガール

司弐紘

番号1

 その騒動が始まったのは――


 思い返せば何ら特別なところの無い、いつも通り暑い日だった記憶がある。

 ただ蝉の声だけが世界に充満していた。


 僕はその時……そうだ。やっぱり特別なことは何も無くて、時間を潰すために何かの用事を前倒しで行っていたんだろう。


 まったく思い出せないのが、その用事がどれだけどうでも良いものだったのか証明しているようなものだ。


 その日の夜、というか夕方頃からサークルの飲み会があったので、寝てしまっては寝過ごしてしまう。……なんて理由を考えながら僕は無理矢理外に出ていた可能性もある。


 さて僕は駕籠大の学生で、あまり大学がっこうから近いとは言えないアパートで一人暮らしをしている。

 徒歩で通学は出来るけど、出来れば交通機関に頼りたい。そんな距離感だ。


 僕がその時、思い出せない用事を済ませて帰ろうとしていたのも、いわゆる閑静な住宅街にある僕のアパートだ。

 それは間違いない。


 何せ、その帰宅途中で僕は「彼女」に出会ってしまったのだから。


 「彼女」を見つけたのは、アパートすぐ近くにある公園だ。

 ただし子供達はいない。少子化の影響か、暑さのせいなのか。


 とにかくその公園は、あらゆる方面で機能不全を起こしており、その象徴は滑り台のはずなのに、滑る部分が全くない滑り台の残骸だろう。


 ……わかりにくいな。


 つまり、滑り台の階段部分だけがポツンと残されいる感じかな。

 当然、その周囲は黒と黄色のロープで囲われて「立ち入り禁止」にはなっているんだけど、そんなの子供でも乗り越えられる。


 それが事故の話も聞こえてこないんだから、子供がそもそも公園で遊んでいないのか……公園自体を無くしてしまう話になっているのかも。


 そしてそんな半端な階段のそばに。

 つまりはロープで囲まれた場所に。


 「彼女」はいたんだ。

 公園の地面に仰向けに寝転がって。


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