第199話 「……好きなら、当ててみて?」
ラジオ体操が終わりそのまま部屋に上がり込んできた早霧が、俺のベッドの上に寝転んでいる。
服装は学校指定のポロシャツとハーフパンツのままだけど、寝転がった際に広がった長く白い髪が綺麗で、その姿を見るだけでドキッとした。
冷房が効き始めた部屋は涼しくても、体温が上がるのを感じてしまう。
「やっぱりこういうのはちゃんと勝ち負けを決めた方が二人の為になると思うの」
「……お前が負けたくないだけだろ?」
「そうだよ?」
キョトンとする早霧の隣に座って、俺はベッドに広がる白髪を手ですいて整えた。
早霧の髪は絹のようにサラサラで、いや本物の絹に触った事はないけれど……凄く手触りが良いのである。
早霧は俺に身を委ね、毛づくろいされる猫のように目を細めていた。
「だって私の方が、ずっとずっと。蓮司の事……大好きだもん」
「…………」
淡い色の瞳が俺を見上げる。
白い肌も、細く整った眉も、高い鼻も、プルプルの唇も……気づけば見下ろす位置から目の前に近づいていた。
俺が、早霧の隣に寝転んだからだ。
「集合まで、まだ時間あるよね?」
「……ああ」
ベッドに寝て向かい合う早霧が、俺の頬をむにむにと摘まむ。
少し喋りにくいけど、時間もまだ二時間近くあるので余裕も余裕だった。
「さっきはあんなに好きって言ったけどさ」
頬をつまむ手が、撫でる手に変わる。
華奢で細い手は暖かくて、俺の頬を包んでくれた。
「言葉だけじゃ……分からないよね?」
そのまま、淡い色の瞳がそっと閉じられる。
睫毛の長さを見えたのはほんの一瞬で。
「――んぅ」
早霧の唇が、俺の唇に重なる。
触れ合うキスは朝ぶりで、今度は早霧からだった。
「ふふっ、今朝のしかえしだよ」
少しだけ顔を離した早霧が、はにかむ。
キスの後に見せるこの嬉しそうな笑顔は、いつ見ても胸の奥を熱くさせた。
「ほーら、次は蓮司の番だよー?」
早霧の顔が悪戯な微笑に変わる。
寝転がりながら身体を密着させてくれば、柔らかさと温かさをポロシャツ越しに感じた。
「このままじゃ、負けちゃうよー?」
そして次は足を絡めてくる。
ハーフパンツから伸びた素肌が触れ合い、冷房で涼しくなった部屋でもくっついた部分は汗で滑りそうだった。
「ここで問題です。早霧ちゃんは、蓮司に何をされたいでしょう?」
細い人差し指が、俺の唇に触れる。
まるでリップを塗るかのように唇をなぞってくるその指は、キスと違ってくすぐったかった。
「……好きなら、当ててみて?」
その指が離れて、早霧の顔がまた近づいてくる。
既にほとんど距離はゼロで、互いの吐息が混ざるぐらいだ。
淡い色の瞳がまるで期待するかのように輝いて見えて、薄桃色の唇は俺を待っているかのように閉じられていた。
「……ああ、分かったよ」
ここまで挑発されて、動かない俺じゃない。
でも夢中になれば、俺たちは時間をすぐに忘れてしまうのもまた事実だ。
今日に限っては大事な部活もあるし、厚樹少年たちとの約束を破ってしまう事にもなりかねない。
けれど俺だって早霧に負けたくないし、もっと好きと伝えたかった。
それに公園で頬にスタンプを押されたしかえしだってしなくてはならない。
これら全てを叶える方法は、たった一つで――。
「ひああぁっ!?」
――俺は、早霧の首筋にキスをした。
くすぐりに弱い早霧は身をよじりながら甘い悲鳴を上げたけど、自分から絡めてきた足と俺が背中に回した手によって逃げられない。
ここからが、反撃の時間だった。
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