第197話 「やるね……!」
『ラジオ体操第一~!』
俺と早霧の、厚樹少年とアイシャの、どっちの方が相手のことを好きか対決の火蓋が、ラジオ体操の音楽と共に切って落とされた。
俺の隣には厚樹少年が、早霧の隣にはアイシャが立ち、俺たちはお互いに好きな相手と向き合っている。
こっちの方が好きだということを、わからせるために――。
『腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動~』
「私の方がこーんなに、蓮司のこと好きだよ!」
「ぐっ……」
ラジオ体操の動きに合わせて早霧が両手を上げて好きをアピールする。
早速先手を取ってきた素早さと身体いっぱいを使って表現するいじらしさが可愛くて仕方ないが、俺も負けてられなかった。
『手足の運動~』
「俺だってこーんなに早霧のことが好きだぞ!』
「うぅっ……」
膝を曲げた反動で手足をぐいっと伸ばしながら、身体を大きく動かすことで早霧に好きを伝える。
この気持ちが効いたのか、さっきの俺と同様に早霧も少しうろたえた。
『腕を回しま~す』
「アイシャも! アツキのことだーいすき!」
「あ、アイシャ……」
しかしそこはチームプレイ。隣にいたアイシャがすかさず大きく腕を回して厚樹少年に好きをぶつけてくる。
許嫁で好き合ってる純粋な感情は、純情な厚樹少年の心を強く揺さぶった。
『足を横に出して胸の運動~』
「ぼ、僕だってアイシャのこと、だいすきだよーっ!」
「アツキ……」
だけど厚樹少年にも意地がある。胸を大きくそらしながら両手を広げ、見事にアイシャへとカウンターの好きを食らわせる。
これにはたまらず彼女も白い頬を赤く染めてしまった。
『腕を上下に伸ばす運動~』
「でもっ! 私はっ! すっごい! 蓮司がっ! 好きっ! だもんっ!』
「なっ……!?」
このままこっちが優勢かと思ったら、曲の後半で早霧が反撃に出る。
曲に合わせて早霧がキビキビと動き背を伸ばしながら好きの波状攻撃をぶつけてきた。
『身体を回す運動~』
「おーれーだってー、好ーきーだーっ!」
「んん……っ!」
だが諦める俺じゃない。
負けじと全身を大きく回しながら、全世界に向けるかのように早霧へと地球規模の好きをお見舞いするんだ。
『両足飛びで~す』
「アツキっ! すきっ! アツキっ! すきっ! アツキっ! すきっ! あつきっ! すきっ!」
「う、うあぁ……!」
すると今度はアイシャが曲に合わせて小刻みに飛び跳ねながら厚樹少年に好き好き猛ラッシュをぶつけてくる。
これにはたまらず厚樹少年も顔を真っ赤にさせた。
『手足の運動~』
「それでも……僕も……アイシャのこと……好きだよ……」
「あ、うぅ……」
そんな厚樹少年が照れながらアイシャに想いを伝える。
その真摯な言葉に、アイシャも揃って真っ赤になった。
『深呼吸~』
「蓮司……やるね……!」
「ああ……早霧もな……!」
「アツキ……負けない……!」
「アイシャ……好きだよ……!」
そうして俺たちは深呼吸をしながらお互いの健闘をたたえ合う。
ラジオ体操は終わったけど、勝負はまだ始まったばかりだった。
「す、すごいわね太一……」
「太一くん、どう思う……?」
「……ひょっとして厚樹も兄さんも、どっちも馬鹿なんじゃないか?」
――その一方で、幸せ三角関係組は普通にラジオ体操を終わらせていた。
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