第196話 「勝負だよ蓮司!」
後ろを振り向くと、ベンチでアイシャと話していた早霧と目が合った。
早霧は淡い色の瞳をキョトンとさせていて、首を傾げている。そして俺も同じように……首を傾げていたんだ。
「私の方が好きだよ?」
「俺の方が好きだが?」
何故なら、早霧の方が俺の事を好きらしいから。
俺の方が早霧の事を好きなのに、おかしな話だ。
「いやいや」
「いやいやいやいやいやいや」
俺は首を振る。
早霧はもっと首を横に振った。
俺たちはお互いに日陰から出て、ゆっくりと近づいていく。
「俺は朝起きたら隣で寝ている早霧を抱きしめてキスをしたぞ?」
「私は朝寝ている蓮司の横に忍び込んで首元の匂いを楽しんでたよ?」
「おい、聞いてないぞ」
「だって、私の方が好きだもん!」
ニヤリと早霧が笑う。
その綺麗な白い髪が、朝日に照らされて輝いていた。
「そ、そんなこと言い出したら俺だって早霧を抱きしめる度に髪の匂いで癒されてるからな!」
「なっ、そんなことしてたの!?」
「だって、俺の方が好きだからな!」
早霧は恥ずかしそうに頭頂部を両手で押さえる。
その仕草でさえ可愛いと思うけど、これで状況は五部になった。
「私は毎日蓮司のことを考えてるよ!!」
「俺は夢でも早霧のことを考えてる!!」
「でもキスは私からだもん!」
「いや元々は俺からだろう!」
「ぐぬぬ……!」
「ぐぬぬ……!」
俺たちは睨み合う。
何故なら、自分の方が好きの気持ちが大きいから。
「勝負だよ蓮司! どっちが相手のことを好きか、決めようよ!」
「上等だ早霧! 俺の方が早霧のことが好きってこと、わからせてやるからな!」
絶対に負けられない戦いがここに始まる。
俺たちは互いに、同じ想いを持ったパートナーへと声をかけた。
「やるよアイシャちゃん! 私たちの方が好きだって、教えてあげよう!」
「……うん! オネエチャンっ!」
「やるぞ厚樹少年! 俺たちの方が好きだと、全力でぶつかるぞ!」
「……はい! 蓮司お兄さんっ!」
こうして俺と厚樹少年、早霧とアイシャのペアが生まれる。
どっちが相手のことを好きかの真剣勝負が、閑静な住宅街の公園で始まろうとしていて――。
「太一……」
「太一くん……」
「いや俺はやらねーよ!?」
――その一方で、幸せ三角関係組は平和だった。
――――――――――――――――――――――――――
※作者コメント。
お久しぶりです(何度目か分からない土下座)。
風邪と多忙のコンボを食らってダウンしていました……。
ゆっくりペースを戻していきますので、よろしくお願いします。
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