第194話 『だ、だって……!』
突然駆け寄って来た太一少年たちに背中を押されて公園に入ると、そこには背中を向け合って険悪な雰囲気の厚樹少年とアイシャの姿があった。
あんなに仲の良かった許嫁二人が出している露骨に喧嘩していますという空気は、閑静な住宅街の中にある夏休み朝の済んだ公園の空気をこれでもかと重くしている。
驚きで固まる俺と早霧を、太一少年や真里菜と美玖の幸せ三角関係トリオが不安そうに見上げていた。
「今日久しぶりに厚樹たちを見たと思ったら、ずっとこんな感じなんだよ……!」
「二人とも仲良かったのに、すごく変なんですよ!」
「あっくんたち、ラジオ体操来てたんですね……!」
三人は思い思いの言葉を俺たちにぶつける。
こうしてラジオ体操に参加している小学生組が同じ時間に集まるのは初めてだけど、それは二人に特別な事情があったからで、彼らの仲は凄く良いんだと思った。
「早霧、アイシャを頼む」
「うん、蓮司も厚樹くんをお願いね」
そんな仲の良い小学生たちを、そして可愛い弟分と妹分を放っておけない俺と早霧はお互いにアイコンタクトを取って歩き出す。
目的はもちろん、背中を向けて俯き黙り込んでいる二人に事情を聞く為だ。
「厚樹少年」
「アイシャちゃん」
俺と早霧はそれぞれ、同時に二人へと声をかける。
すると喧嘩しているのにも関わらず、二人は息ピッタリな様子で顔を上げて俺たちの方を見て。
「あ、蓮司おにいさん……」
「サギリお姉ちゃん……」
「あ……」
「ア……」
「「……ふんっ」」
これまた同時に俺たちの名前を呼んだかと思うと、それに気づいた二人は一瞬だけ顔を見合わせて固まった後、お互いにそっぽを向いた。
……これは思ったより、深刻かもしれない。
「とりあえずこっちに来てくれないか?」
「アイシャちゃんはこっちでお話ししようか?」
まずは喧嘩しているのに近くにいた二人を離すことが先決だと思った俺たちの動きは速かった。
俺は厚樹少年を連れて少し離れた木陰に向かい、早霧はアイシャと日陰になっているベンチの下に座る。
これで一対一で話が出来る状態が完成した。
もしかしたら昨日の長谷川ユズル押し倒し事件の教訓が活きたのかもしれない。
何はともあれ、事情を聞こう。
「何があったんだ?」
「…………」
俺は単刀直入に聞いた。
それは昨日、厚樹少年から電話を貰った時点で二人が喧嘩をしていて、俺たちに助けを求めているとわかっているからである。
お互いに大好きな相手がいる者同士、男と男の間に隠し事は無し。
でもやはり慣れない喧嘩をして意地があるのか、厚樹少年は黙ったままだった。
その気持ちは俺もわかるし、通った道である。
「話してくれなきゃ、わからないぞ? アイシャと仲直りしたいんじゃないのか?」
「…………はい」
長い沈黙の後で、厚樹少年が小さく頷いた。
先日アイシャを抱きかかえて公園に来てへとへとになっていた時よりも弱弱しい声だった。
厚樹少年がアイシャのことが大好きで大切に想っているのは、俺も知っている。
だから少し傷口を開いても、すぐに仲直りをさせてあげたいんだ。
喧嘩をして苦しいのは、俺も早霧も痛いほど経験しているから……。
「なら話してほしい。そうじゃないと、アドバイスも手助けもできないんだ」
「蓮司お兄さん……」
「でも喧嘩をして困って、仲直りしたくて電話をしてきたのは立派だぞ。厚樹少年はアイシャのこと、好きだもんな?」
「……はい!」
厚樹少年は真面目で優しくて頭が良い。
少しずつ俺の言葉を受け入れて、最後は大きく頷いてくれた。
これなら仲直りも早そうだ。
だけど、だからこそ、わからない。
どうして想い合っている許嫁の二人が、喧嘩をしたのかが。
確かに俺と早霧も、親友という言葉に振り回されて喧嘩をしてしまった。
厚樹少年とアイシャにも、そういう共通の何かがあるのだろうか?
「良いぞ、その意気だ。でもまずは聞かせてくれないか? どうしてアイシャと喧嘩をしたのかを」
「それは……」
そこは言いにくいのか、元気になった厚樹少年の声がまた小さくなってしまった。
でもそれが解決への一番の近道だから、俺は聞く。
「別に悪いことをしたからって怒るつもりは無いぞ? ただいつもの厚樹少年なら、喧嘩をしても大好きなアイシャにすぐに謝ると思うから、不思議だと思ってな」
「だ、だって……!」
すると厚樹少年は今日一番大きな声を張り上げる。
そこにはきっと、この喧嘩の根本的な問題が含まれていて――。
「だって僕はアイシャのことが世界で一番大好きなのに、アイシャはそれよりもっと僕のことが大好きって言うんですよ!?」
「……うん?」
――含まれて、んん?
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※作者コメント
一日遅くなりました!!(土下座)
おかげさまでリフレッシュ出来ましたので、遅れましたが今日からまた投稿を再開させていただきます。
この休んでいる間に、読者の皆さまから頂いて滞納していた約三ヶ月分のコメント(作者ガバガバ計測によると310コメント)に返信いたしました!
読み返してみて懐かしいなぁと思ったり、蓮司くんや早霧ちゃんを筆頭に登場人物みんな愛されているなぁ……と実感してとても嬉しくなりました。
いつもコメントをくださる方、いいねをつけてくださる方、そして読んでくださる方々に……作者自身、本当に支えられています。
改めまして、ありがとうございます!
そしてこれからも、まだまだ8章が始まったばかりですのでどうかよろしくお願いいたします!!
ゆめいげつ
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