第八章 俺たちは……勝ちたい

第192話 「…………!」

 俺ぐらいのレベルになると、これが夢か現実かを理解できるようになるらしい。

 というのも最近俺は毎日のように夢を、いや……早霧の夢を見ていて、今日も夢に早霧が出てきたからだ。


「……すー、すー」


 けど今回の夢は動物になるとか変な夢じゃなくて、シンプルに早霧が俺のベッドの中に潜り込んできている夢だった。

 夢の中なのに眠っているとか、早霧らしいと言えば早霧らしい。


 その可愛い寝顔の頬を指でつつくと、柔らかい感触があった。


「……ううん」


 どうやら俺レベルになると夢の中で触った感触も手に入るらしい。

 早霧の白い頬は柔らかくてすべすべで、ずっと触ってられる文字通りふわふわの雲みたいな感触だった。

 でも夢の中で寝ている早霧はその眠りを邪魔されるのが嫌なのか、ベッドの中でモゾモゾと動いている。


「ごめんな」

「……んん」


 だから俺は、その頬にそっとキスをした。

 俺の唇にも早霧のほっぺたの柔らかさが伝わってくる。

 普段なら恥ずかしくてやらないけど、夢の中なら許してくれると思う。


 どうも最近の夢は俺の欲望に忠実みたいだから、せめて夢で発散しておこないと現実で大変なことになりそうだからなぁ。


「……早霧」

「――んぅ」


 と、いう訳で今度は唇と唇を重ねてみる。

 夢の中でも現実と変わらない気持ちよさと心地良さがあって、幸せな気分だ。

 ついでに隣で眠る早霧の身体を抱き枕にしてみたりする。

 夢なのにジャージで寝ている所が、早霧っぽいとも思うしやっぱり夢なんだなぁとも思う。


「あぁ、幸せ……」

「…………」


 俺は夢の中で早霧の感触を堪能している。

 昨日の夜も凄く良いところで厚樹少年から緊急の電話があってそれどころじゃなくなってしまったから、夢の中だけでももっと早霧成分を補充したかった。


 白くて長い髪はサラサラだし、夢の中でもシャワーを浴びた後なのか凄く良い匂いがする。

 顔は言わずもがな美少女で、閉じた瞳からも見えるまつ毛の長さとか、スッと長い鼻の高さとか、薄桃色でプルプルの唇とか、全部愛おしい。


「……んっ」


 なのでもう一度キスをした。

 早霧を見ていて我慢できなくなったからだ。

 でもまあ、夢なので許してほしい。

 早霧が大切なのは間違いないけど、俺も男なんだ。


「好きだぞ、早霧」

「…………」


 唇を離して、まだ夢の中で眠っている眠り姫な早霧にそっと囁く。

 夢だけど、こういう時間を大切にしていきたい。

 早霧とずっと一緒にいる、幸せな時間。

 温かくて、心地良くて、安心して、嬉しくて、心が、安らいでいく。


「ふあぁ……」


 そんなポカポカした夢の中で、俺も眠くなった。

 大きなあくびを一回する。


「俺も寝るかぁ……」


 そう言って早霧を抱いたまま目を閉じる。

 柔らかくて温かい今だけ俺専用の抱き枕になった早霧のおかげでとても気持ち良く眠れそうだ。


 だんだん意識がぼんやりしてきて、ああそろそろ眠れそうだなってなってくる。

 いやでも本当に、夢の中で眠るなんておかしな話だ。

 早霧の体温や匂い、柔らかさまで感じるとか、なんて素晴らしく幸せな夢なのだろう。

 キスした時の感触も現実と同じで、実はこれは夢じゃなくて現実なんじゃないかと思ってしまうぐらいだ。


 でも俺レベルになれば、これは俺の妄想が作り出した夢なのは間違いない。

 だから目を開ければまだ夢の中なのに眠り続けている、愛しい眠り姫が――。


「…………」

「…………!」


 ――バッチリ、目を開けていた。

 その綺麗な白い頬を真っ赤に染めた早霧が。

 淡い色の瞳をこれでもかと見開いたまま、俺に抱かれている。


「…………」

「…………」


 俺はゆっくりと、自分の頬をつねってみた。

 痛い。しかも、冷や汗がダラダラと流れてくる。


 どうしよう。

 ……夢じゃ、なかった。



――――――――――――――


※作者コメント

 第八章、波乱の幕開けです……!

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