第186話 「パパには内緒だよ?」
「ただいまー」
早霧と腕を組んで手を繋ぎながら、早霧のことが可愛いなと思いながら、俺は学校から家に帰って来た。
久しぶりの学校はとても刺激的で、ていうか刺激しかなくて、それも半分以上は早霧によるものだけどとにかく刺激的だった。
「おう、おかえり。いたたた……」
「安静にしてなよ」
「俺も歳かもな……」
「歳だよ」
本人がいないところで旅行と腰痛の真実が次々と発覚している父さんに軽く挨拶をしてから脱衣所へ直行して服を脱ぎ、風呂場へ入ってシャワーを浴びる。
一人の風呂場は何故か広く感じて、頭にはやっぱり早霧の顔が浮かんできた。
「ふぅ……」
雑念を汗と一緒にシャワーで流して一息つく。
何か忘れてるような気がすると思いながらも、リラックスした頭では何も考えられずにバスタオルを腰に巻いて二階にある自分の部屋へと向かった。
「エアコンつけてからシャワー浴びれば良かった……」
そんな俺を迎えたのは、冷たい風でも何故か部屋にいた早霧でもなく、誰もいない熱気がこもった俺の部屋だった。
昨日早霧が言っていた気持ちがわかった気がする。
確かに汗を流した後は涼しくなりたいし、風呂から戻ってきて部屋に俺がいたらそれは驚きだ。
「…………」
虚無。
手早く着替えを済ませてベッドへダイブ。
もちろんエアコンの冷房を最大にすることは忘れず、少し待てば冷たい空気が部屋を満たしていった。
「何か忘れてる気がする……」
そしてまた、呟く。
頭の中に小さな引っ掛かりがあったからだ。
今日は色々なことがあり過ぎたせいで頭のキャパが追いついていないのである。
夏休みなんだからもっと頭空っぽにして過ごしたいぐらいだ。
「何だったっけかな……ん?」
その時だ。
ベッドに寝転がっている俺の顔の横でスマホの通知が鳴る。
画面を見るとそれはいつものメッセージアプリで、早霧との個人チャットだった。
「うおっ!?」
そして画面いっぱいに広がる、セクシーな黒下着姿な早霧の自撮り画像。
これを送られたのが昨日なのに今日という日常が濃すぎて完全に意識の外だった。
フォルダに保存したのに、このチャット欄で見るのはまた違った味がある。
その下には昨日のログで『似合う?』と書かれていて、その下には新しいメッセージが届いていた。
さぎりん【六時ぐらいに来てほしいな】
「……あぁっ!?」
俺はまた、叫ぶ。
そしてついに思いだした。
今日の朝、早霧に今夜家に来れるかと聞かれていたんだ!
……完全に忘れていた。
早霧との約束はもう絶対に忘れないと心に誓ったのに、長谷川とかユズルとかスポーツドリンクの口移しとかネクタイとかカーテンとか濃密過ぎる学校生活のせいでその誓いも危うく誓いじゃなくなるところだった。
れんじ【ありがとう】
それを思い出されてくれた早霧にメッセージを返す。
こうしちゃいられない、準備をしなければ。
早霧が俺を呼んでいる。
夜に、早霧の家に……。
別に期待してる訳じゃないけれど、早霧と一緒にいると高確率で甘い出来事が起きるし、別に期待はしてないけど下着の件もあるし、別に期待してるとかじゃないけど準備は色々大事だと思うし……。
「ん?」
ベッドから降りて右往左往しまくっていると、またスマホが鳴って。
さぎりん【パパには内緒だよ?】
何が内緒なのかはわからない。
だけどそのメッセージを見た俺は速攻で二回目のシャワーを浴びに部屋を飛び出したのだった。
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