第185話 「また明日ねーっ!」
「お、お騒がせいたしましたぁ……」
暴走する草壁が落ち着きを取り戻したのは、教室での話を終えて下駄箱で靴に履き替えた時である。
その間も妄想が爆発していた草壁は校舎内であるにも関わらずにギリギリの発言を繰り返していた。
それはそれは心臓に悪くて、傍から見たら俺と早霧がやっている行為もこんな感じなのかなって反省するレベルだった。
「ううん、私たちの方こそごめんね? せっかく遊びに来てくれたのに」
「い、いえ! おかげさまで素晴らしいものが見えましたので今日はこれでもう困らないですよぉ!」
俺たちのキスを見て何が困らないんだろうか。
何故かはわからないけど、聞いちゃ駄目な気がしたので聞かなかった。
「それに明日は城戸さんと長谷川さんからも色々とお話を聞けると思うとぉ、わくわくですぅ……」
「……楽しみなら、何よりだ」
さっきまで発狂してライン超えの発言をしまくっていたとは思えないぐらいに声が明るい。
明日はきっとあの二人が質問攻めにあう番だろう。
初々しい二人が草壁から変な影響を受けないかが少しだけ不安だ。
「そ、それでは私はこっちなのでぇ……」
「あ、ひなちん自転車だっけ?」
「はいぃ。ですので、また明日よろしくお願いします……」
「ああ、よろしくな」
「また明日ねーっ!」
「ひょわぁー……っ!」
こういうことに慣れていないのか、草壁はぎこちなく手を振りながら駐輪場へと走っていく。
一緒にいた時間は少ないけど、本当に嵐というか台風みたいな存在だった。
そのインパクトが強すぎて、今日あったことの大半が吹き飛んでいたぐらいで……っていうか、今日は色々なことがあり過ぎじゃないか?
太一少年の告白だったり、早霧との約束で学校でキスをしまくったり、長谷川とユズルが付き合いだしたり、俺たちのキスを草壁にまた目撃されたり……。
……いや本当に多いな。
「ささ、ささささ……」
「……何してるんだ?」
そんな濃すぎる一日を思い返していると、早霧が俺の隣を歩きながら何かを始めようとしていた。
俺の肩に自分の肩をくっつけてきているのに、そこで何かうねうねしている。
表現がこれで良いか微妙だけど、うねうねしているとしか言えなかった。
「帰りは蓮司と腕を組むか、手を握って帰るかが決められなくて……」
「……そうか」
幸せそうな悩みだった。
幸せ過ぎて、俺が顔を直視できなくなるぐらいには不意打ちを食らうやつだった。
おい早霧……お前、可愛すぎるぞ?
うねうねしてるのはどうかと思うけど。
「んー……あっ! こうすれば!」
「お、おぉ……!?」
可愛い悩みが解決したらしい早霧は、まず俺の手を握ってきた。
その上で俺の腕を自分の腕と身体で挟み込んで、どちらも取った欲張りセット。
夏服でむき出しの俺の腕に、早霧の柔らかな腕と身体の感触がサンドイッチのように襲ってきた。
別に見られても困らないけど、まだ学校の敷地内である。
「えへへー、これならどっちもー!」
「……だな」
満足げに笑う早霧が俺を見上げてくる。
まだ高い位置にある太陽が照らすその笑顔はとても眩しくて。
思わず握られた手を強く握り返しながら、俺たちは学校を後にして短い帰路につくのだった。
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