第166話 『ふぇ……?』
緊急事態だ。
俺と早霧がキスをしているって、ユズルにバレた。
バレたというよりか早霧が言ったんだと思うけど、俺のピンチには変わりない。
冷静になって、落ち着いて、まずは状況確認が大事だ。
「ど、どうしてそれを……」
「さ、さぎりんが……言ってた」
やっぱり犯人は早霧だった。
誤魔化してもしょうがないとは思うけど、せめて後で早霧をどうにかする為の証拠を掴むためにもう、少しだけ聞き出そう。
そういえば太一少年たちの件でのお説教もまだしてなかったな……。
「それで、早霧はなんて言ってたんだ……?」
「あ……って言った後にレンジを呼びに行くって、飛び出してったよ……」
重ねて説教が確定した。
この話だけで、早霧がポロっとユズルとの話の流れで俺とキスしていることを言ったっていうのが簡単に想像できる。
早霧とユズルは仲が良いしそれだけなら仕方ないと思うけど、その後に何も言わずに全部俺に擦り付けたのは重罪中の重罪だ。
とりあえず早霧の苦手なくすぐりの刑は絶対にやってやろう。
「そ、その反応的に、やっぱり……?」
その前に今はユズルの相手をしなければならない。
いずれ言わなきゃいけなかったことだけど、やっぱり緊張する。
「ああ、したよ……キス。」
「わ、わぁ……!」
顔から火が出そうだった。
母さんたちに早霧とイチャついているところを見られた時よりも恥ずかしい。
そんな俺をユズルは茶化すのではなく純粋に照れながら驚いているのが、更に俺の恥ずかしさに拍車をかけた。
「じゃ、じゃあ……レンジはさぎりんと、その、お、お付き合いを……?」
「…………」
「……あれっ?」
「…………部分的に、そう」
「……部分的?」
「いや、ちょっと……説明が難しくて……」
ユズルに言われて気づいた。
俺と早霧は想いが通じ合ったけど、別に付き合ってないなって。
いや今さらそれは些細なことだし、俺たちにとってはその関係が親友そのものなんだけどそれをどう説明して良いかって言われると難しかった。
「で、でも……チュー、したんだよね? そ、その……さぎりんが、好きで……」
「しました……」
ユズルが真っ赤になりながら俺に聞いてくる。
多分俺も、顔が真っ赤になりながら返事をした。
そんな真っ赤になった俺たちの間に恥ずかしさから変な沈黙が――。
「良かったぁ……!」
「え……?」
――走ることはなかった。
あったのは、ユズルが見せた心からの安堵の表情だった。
「レンジ、おめでとうっ! これからも、さぎりんと仲良くねっ?」
「お、おう……ありがとう……」
「あぁ……良かったぁ……良かったよぉ……」
肩に入っていた力が抜け、へにゃんと椅子にもたれながらユズルが笑う。
その変わりように俺は混乱するばかりだった。
「き、聞かないのか……?」
「え? なにを?」
「俺と、早霧の関係というか……」
「だって仲良しなんでしょっ?」
「ああ……めちゃくちゃ仲良し……」
「じゃあ良いよっ! 聞ーかないっ!」
ニコニコ笑顔。
ユズルはいつにもまして小動物ちっくな表情を見せる。
その笑顔は、長谷川が見たら多分自分の胸を押さえて呼吸困難になるだろう。
ごめん長谷川。
「……なんか、軽いな」
「ふっふっふっ、ワタシたちは自分らしさ研究会だよ? 自分らしさを追求する二人が選んだ道なら、ちゃんとお祝いしなくっちゃっ!」
「…………」
ユズルの言葉が胸の奥に刺さった。
何度も口に出しているのに、忘れていたんだ。
俺たちはボランティア部こと、自分らしさ研究会。
全員が自分らしさとは何かを話し合い肯定し、明るく楽しく生きていこうが活動がメインだった。
だから気づく。
それは俺と早霧にとっての、親友そのものなんじゃないかって。
自分らしさの先にある……俺たちらしさ。
それをユズルは、自分らしさ研究会会長は俺に教えてくれたんだ。
「……ありがとう、ユズル」
「どういたしましてっ! それともう一回、おめでとうねレンジっ!」
俺がお礼を言うと、ユズルは小さな手で何度も拍手をしてくれた。
思わず胸が熱くなるのを感じる。
「本当はちょっとだけ心配してたんだっ」
「心配……?」
「うんっ。少し前に、レンジがさぎりんのことで何かワタシに話そうとしてた時があったでしょ? その時から二人は仲良しさんだったけど、どこか変だなぁって思ってたんだよねっ! あ、このことはさぎりんには内緒だよっ?」
ユズルはしーっと指を立てる。
どうやらこの小さな会長は俺たちのことをずっと心配してくれたらしい。
「それは……うん、それもありがとう。でももう大丈夫だ。全部気持ちいいぐらいに仲直りしたから」
「え? 喧嘩しちゃったのっ?」
「……ちょっとだけな」
「でも仲直りしたなら良いよっ!」
また満面の笑顔。
我らが自分らしさ研究会の会長はとても器が大きかった。
「いやあ、これで安心だねっ!」
「ああそうだな。じゃあ後はユズルたちのことだけだな」
自分らしさ研究会に笑顔が戻ってきた。
後は逃げた早霧と放置した長谷川を呼んでくるだけだろう。
「え? どういうこと?」
「どういうことって、長谷川がユズルのことを好きって話だけど……」
だからだろう。
俺もつい、ポロって言ってしまったんだ。
「ふぇ……?」
俺の言葉に、ユズルが固まる。
「ご、ゴゴゴッッ!? ゴウがぁ……!?」
そして火山が噴火したかのように、最大級に顔が真っ赤になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます