第160話 「……私とが良かったぁ?」

「見て見てアツキ! アツキカワイイ!」

「こ、こっちのアイシャも可愛いよ!」


 ラジオ体操が終わった。

 文字通り合計三回行われたラジオ体操が終わったんだ。

 一回目は太一少年たちと、二回目は俺と厚樹少年、そして三回目は早霧とアイシャの合計三回だ。

 白髪と金髪ブロンドの美少女がくっつきながらラジオ体操をするのはとても綺麗で、思わず自分のスマホを取り出して俺も写真を撮りまくった。

 そして今は俺と早霧が撮った写真を厚樹少年とアイシャのスマホに送り、許嫁コンビは日陰の下にあるベンチに座りお互いの写真を見せあっている。


 今の小学生って、スマホ普通に持ってるんだな……。


「蓮司お疲れー……あ、おつかれんじ~」

「絶対に言い直す必要なかっただろ」


 さもいつも言ってますみたいな顔をした早霧が俺の肩を叩いてくる。

 ついさっきまでラジオ体操をして汗をかいたからか、前髪が汗でおでこに張り付いていた。


「ほら、前髪。くっついてるぞ?」

「わっ……あ、ありがと」

「……おう」


 その張り付いた前髪を指で軽くはらう。

 汗で濡れていてもサラサラの髪は手触りがとても良かった。

 自分の前髪を両手で触り照れる早霧を見て、俺も少し照れくさくなった。


「このアツキ、お人形さんみたい!」

「あ、アイシャだって!」


 そんな俺たちのすぐ横で、仲睦まじい二人が笑い合っている。

 それを見て、照れくささは勝手にどこかへと消えていった。


「最初はどうかと思ったが、上手くいったみたいだな」

「へっへん。アイシャちゃんには沢山の思い出をあげたいからね」


 腰に手を当ててドヤ顔の早霧。

 ちょっとだけ腹立つが、それぐらいの働きをしたので何も言わない。


「でも明日はやらないからな?」

「えー? 何でー?」

「俺たちを撮るお前の顔がニヤけすぎてたからだよ」

「良いじゃん。美男子二人の絡みだよ?」

「絡み言うな」


 それに俺を美男子にカテゴライズするんじゃない。

 本当の美男子である厚樹少年に失礼だろ全く……。


「あれ~? 蓮司、顔赤ーい。照れてる? まだ照れてる?」

「う、うるさいな。とにかく、明日はやらないからな!」

「ちぇー。ケチ蓮司ぃ……あっ、ひょっとして」


 可愛く頬を膨らませた早霧が何かを思いついたように俺の顔を覗き込み――。


「……私とが良かったぁ?」


 ――渾身の、ニヤケ顔になった。


「アツキ! これパパとママにも送っていい!?」

「えっ!? そ、それは、止めてよぉ!!」


 少し離れたベンチでは、写真に夢中になってる二人。


「困っちゃうなぁ~。蓮司は私のこと、大好きだもんなぁ……」


 目の前には、前のめりに俺を見上げてニヤける早霧。


「ああ、そうだな」

「えっ?」


 俺はそんな早霧の顎に手を添えて。


「ん――っ!」


 そっと触れる、キスをした。

 見開かれる瞳、鳴き続けるセミの声。

 一瞬だけの短いキスは、まるで俺が時間を止めたように、長いものに感じた。


「俺は、早霧とじゃなきゃ嫌だよ」


 唇を離して、俺は言う。

 まだ固まっている早霧に、俺は言葉を続けて。


「妹レベルで可愛がってるアイシャにだって譲る気は無いからな。分かったか?」

「ピ、ピェ……」


 返ってきたのは、真っ赤な顔で消え入りそうに呟かれた、小鳥みたいな声だった。


「……あれ? 蓮司お兄さーん! 早霧お姉さーん! こっち来ませんかー?」

「そこじゃお日様アツいよー?」

「おー! 今行くー! ほら、早霧?」


 今度は俺がしたり顔で。

 真っ赤になった早霧に右手を伸ばす。


「は、はい……」


 久しぶりにしおらしくなった早霧は、右手で自分の前髪を弄りながら逆の手で俺の手を握るのだった。

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