第158話 「れーんーじっ?」
「お姉ちゃんっ!」
「アイシャちゃんおはよー!」
厚樹少年に抱っこされていたアイシャが早霧に駆け寄る。
いつ見ても白髪の早霧と金髪ブロンドのアイシャが並ぶのはとても絵になった。
「お、おはようございます……」
「……大丈夫か?」
片やこちらは汗だくになった厚樹少年と俺の組み合わせである。
厚樹少年は将来有望な爽やか少年だが、圧倒的な美少女二人を前にしたらそれさえも霞んでしまっていた。
「だ、大丈夫です……」
「そうは見えないけど……水、飲むか?」
「あ、ありがとうございます……」
俺が早霧から貰った水筒を手渡すと厚樹少年は震える手でそれを受け取る。
そのまま中身を飲み始めたけど、CMになりそうなぐらい良い飲みっぷりだった。
「アツキ、大丈夫……?」
そこに先ほどまで抱っこされていたアイシャが心配そうに近寄ってくる。
美男美女による仲睦まじい様子だけど、理由は抱っこなんだよなと思った。
「うん……アイシャも飲む?」
「のむっ!」
自分が疲れているのにアイシャの体調を気遣える厚樹少年はとても立派だ。
「ん……んくっ、んっ……」
「ゆっくりで大丈夫だからね、アイシャ?」
それはそうと。
厚樹少年が水筒を持ってそれをアイシャに飲ませているのは何故なんだろうか。
何の迷いも無くさも当然のようにやり始めたけど、いつもやってるんだろうか。
この二人、純真無垢だけどかなりレベル高くないか……?
「良いなぁ……」
「早霧……?」
その様子を見ていた早霧が俺の横で羨ましそうにボソッと呟いた。
厚樹少年とアイシャのお二人さん、仲が良いのはわかるけど早霧の教育に悪いから控えてくれ……頼む。
「オイシイねっ!」
「うん、よかったね。ほら、口の周り濡れちゃってるよ」
「んむぅ……」
冷たい水を飲み終えたアイシャが満面の笑みを浮かべる。
そしてそこにすかさず厚樹少年がポケットから綺麗に折りたたまれたハンカチを取り出して口を拭うというイケメンっぷりを発揮して。
「なるほど……」
「早霧さん……?」
意味深に呟く早霧がいた。
そしていったい何をされるのかと戦々恐々な俺である。
早霧は思いこむとそのまま一直線に突っ走るタイプなので、下手に話しかけない方が良いだろう。
「蓮司お兄さん、お水ありがとうございます。でも全部飲んじゃって……」
「ん? ああ気にしなくて良いぞ。今日も暑いしな……ほら早霧、水。ありがとな」
「ううん! 二人とも、私の方こそありがとね!」
「何でお姉ちゃんがウレシイの?」
アイシャ、あまりその件で触れないでくれ。
君といると早霧は色々な意味で影響を受けやすいんだ。
「二人が仲良しだとねー、私も蓮司も嬉しいんだ!」
「ほんとっ!? アイシャもウレシイ!」
でも今回はアイシャのお姉ちゃんになりたい欲の方が勝ったらしい。
ずっとこのままでいてくれると平和なんだけどなぁ……。
「いつもすみません、うちのアイシャが……」
「いやいや、うちの早霧の方こそすまんな……」
仲睦まじい美少女二人と振り回される俺たち。
この苦労を共有できる仲間が出来たのはとても良かった。
「アイシャ、昨日のラジオ体操も気に入っちゃって家帰ってからもずっと離れてくれなかったんですよ……」
「……そうか」
それはつまり、二人は家でずっと抱き合っていたということだろうか?
小学生の進みすぎている恋路を聞くべきか、俺も早霧との進展を話すべきかで一瞬だけ悩んだけど、とりあえず頷いておく。
……沈黙はなんとやらだ。
「ラジオ体操! キョウもラジオ体操しよっ!」
「うんうん、一緒にやろうねアイシャちゃん!」
アイシャは待ちきれないのか早霧の前でピョンピョンと跳ねている。
もし俺が通りすがりの部外者ならその微笑ましい行動に和んでいることだろう。
「れーんーじっ?」
「お手柔らかにお願いします……」
俺が、当事者じゃなければ本当に心穏やかでいられたのに……。
「……私に、いい考えがあるよ」
密着するぐらい近づいた早霧が、耳元で囁く。
この時点でもう俺は嫌な予感しかしなかった。
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