第七章 俺たちはもっと仲を深めたい
第153話 「どっちが好き?」
最近思うことなんだけど、俺はよく夢を見るようになった気がする。
昨日俺がオオカミになってしまった夢を見て、それをまだ覚えているのに今日もまたハッキリとした夢を見ていた。
そして、何故俺が今回も今見ている光景が夢だとわかっているかと言えば――。
『蓮司ー!』
『蓮司~!』
――早霧が、二人いたからだ。
流石の俺だって早霧が二人もいれば、一瞬でこれが夢だと判断できる。
『ねえ蓮司』
『ねえねえ』
そんな二人に増えてしまった早霧が、今現在ベッドの上で俺を挟んで両側から耳元に囁いている。
夢なのに何故かくすぐったさを感じたが、俺はそれどころじゃなかった。
『暑いよね』
『暑い暑い』
そう言う二人の早霧が、どちらもバスタオル姿だったからだ。
早霧と早霧は俺を左右から挟み、どちらも座っている俺のふとももに両側から手を置いている。
しかもこれ見よがしに暑いと言って、バスタオルの胸元を指で引っ張っていた。
……最近、こんな夢しか見ないな。
『脱いで良い?』
『は!? ぬ、脱ぐって!?』
『脱いじゃう?』
『ま、待て二人とも! いや早霧とも!!』
――ハラリ。
ようやく夢の中で得られた俺の発言権も虚しく、二人の早霧はバスタオルを脱ぎ捨ててしまった。
『どう?』
『好き?』
『え、あ……お?』
しかし。
俺が裸の早霧二人に挟まれるなんて、欲望まみれの夢にはならなかった。
何故なら二人とも、バスタオルの中に下着を着用していたからである。
『蓮司はいつもの私が好きだよね?』
『え?』
そう言って俺の腕に抱きついてきたのは、左側にいる見慣れた水色下着を着ている早霧だ。
ぎゅっと腕に抱きついて、夢の中なのに柔らかさが伝わってくる気がした。
『蓮司はエッチな私が好きだよね?』
『は?』
そう言って俺の腕に抱きついてきたのは、右側にいる黒のスケスケ下着を着ている早霧だ。
ぎゅっと腕に抱きついて、夢の中なのにスケスケの内側まで鮮明に映っていた。
『蓮司が好きなのは私だよ?』
『蓮司が好きなのは私だもん』
『さ、早霧……!?』
俺を挟んで二人の早霧が喧嘩する。
腕に抱きつきながら向き合うせいで、俺の両側に押し当てられる大きな胸がどちらも形を変えていた。
少し前の発言を訂正しよう。
これは俺の欲望まみれの夢だった。
『ねえ』
『親友』
同じ早霧だから息ピッタリに。
二人の早霧が顔を近づけて俺を見つめた。
『『どっちが好き?』』
そして二人とも、目を閉じる。
これは、キスを待っている時の顔だった。
つまりこれは俺が好きな早霧にキスをしろということだろうか?
『んー!』
『ん~!』
俺が、早霧を選ぶ……?
そんなの、そんなの……!!
◆
「どっちの早霧も大好きだーっ!!」
――ガバッ!
俺は勢いよく飛び起きて。
「どうだ早霧! 俺はどっちも好、き……? あ、ああ、夢か……」
こういう体験、本当にあるんだと思った。
いつもよりハッキリと起きた状態で、視線を前に向けると……。
「…………」
「…………」
扉を開けて固まっている、母さんと目が合った。
「…………」
「…………」
俺は顔を左右に動かす。
やっぱりハッキリしている俺の部屋は、どうやら現実というやつらしい。
「……朝ごはん、出来てるわよ」
「……はい」
――パタン。
ゆっくりと扉が閉まっていく。
俺は、枕元にあったスマホを見た。
どうやら寝落ちをしてしまったらしい。
ロックを解除したスマホにはいきなり画像フォルダにあるスケスケ黒下着姿の早霧が映り出して、画面端の時計には小さく『07:15』と表示されている。
寝坊だ。
そういえば、アラーム……かけてないなぁ。
そんなことが、頭に過ぎって。
「ぐがあああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!」
ドン引きしてドアを閉める、母さんの顔を思い出してしまった。
良い夢を見たのに最悪の目覚めをした水曜日の朝は、ベッドの上で悶えることから始まるのだった。
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