第152話 「……こういうの、好き?」

「な、何考えてんだアイツ!?」

 

 早霧が、下着姿の自撮りを送ってきた。

 それもただの下着じゃない、とんでもなくセクシーな下着だった。

 まず色が黒だ。

 水色系統が好きな早霧には珍しいその色は、色白の肌をこれでもかと映えさせていていつもと全然違って更に大人びて見えた。


 それもそのはず。色だけじゃなくて大きさも全然違ったからだ。

 布が、布って言って良いのかな……とにかく布面積がとても少ない!

 早霧の大きな胸がこぼれてしまうんじゃないかと心配になる大きさをした黒の下着は、明らかに今まで着ていたそれとは明らかに系統が違っていた。


 それに生地が薄い……ていうか透けている。

 ところどころ下着の一部の透けていて、なんていうかすごいことになっていた。


「はぁっ!?」


 俺は画像をじっくり見ていて、ある事実に気づいてしまった。


 ――それは画面端に映っていたあるものである。

 この際、顔の上半分を隠して撮影しているのが、なんかいかがわしく見えるとかそういうのは一端無視しておこう。

 重要なのは、早霧が着ているのが下着ということだ。


 男用ならそれこそパンツだけだろうけど、女性用になると上下セットが当然ある。

 画像の端、試着室のハンガーにかかっていたのは……早霧が着ていたスケスケのブラジャーとセットでだと思われる――。


 ――スケスケでほとんど紐みたいな黒い生地の、Tバッグだった。


さぎりん【ど、どう……?】


「どう!?」


 更新されたチャット欄の言葉に、俺は思わず声を出して返事をしてしまった。

 何で急にこんなものを……そう頭の中で思ったけど、すぐに早霧の母さんが笑顔で親指を突き立てて姿が浮かんでしまった。

 多分、犯人はあの人だろう。間違いない。


 俺がさっき、早霧の下着を見た時に水色好きなんだなって言ったのを聞かれたか、それをボソッと早霧が言ったかで、変な気を使った早霧の母さんがセクシーな下着を取り揃えている大人向けの店に連れてきた……と、思う。


 ていうかデパートでこんな下着売ってるのか!?


さぎりん【れんじ……?】


 そ、それはそうと、返事をしないと駄目だ!

 俺からの返事が無くてチャット欄の早霧が不安がっている。

 だけど、何て返せばいいんだこれ……。

 チャットだからログが残るし、下手なことは言えないぞ!?


れんじ【に、似合ってる……】


 と、とりあえず無難に。

 似合う? って聞かれたから、似合ってるって返した。

 もちろんそれは嘘じゃない。ていうかそれ以前にめちゃくちゃエロかった。


さぎりん【本当?】

れんじ【ああ、もちろん】

さぎりん【……こういうの、好き?】


「……俺の弱みを、握ろうとしてる?」


 一瞬だけ、疑心暗鬼。

 自分で言っておいてなんだけど、絶対にそれはないと思った。

 そんな俺の変態的発言の言質を取るためにしては、早霧が捨て身すぎる。


 でも俺はこれに返事を返さなければならないんだ。

 仮に、俺が変態だと思われたとしても。

 正直に、正直に……。


れんじ【……大好きです】


 俺はもう、早霧に隠し事をしないと決めたんだ。

 心臓は爆音をかき鳴らしているけれど、心の奥は何故か晴れやかだった。


さぎりん【そうなんだ。ありがとう】


「え? ……それだけか!?」


 俺が勇気を出した告白は、簡単なお礼の言葉を返されて終わった。

 俺のドキドキは、この興奮は、いったい何処へ行けば良いのだろうか……?


「ん?」


 そう思っていると、また通知音が鳴って――。


さぎりん【今度、着て行くね?】


 ――チャット欄が、更新された。


「…………」


 画面を見て、俺は固まる。

 早霧が今度、着てくるらしい。

 スケスケでエロい、黒の下着を。

 着てくるらしい。

 俺に会う時に。

 着てくるらしい。


「…………」


 チャット欄をスクロールして少し戻る。

 黒のスケスケ下着を着た、とてもエロい早霧の自撮り。

 その横には、ほとんど紐のTバッグがかけられている自撮り。


れんじ【はい】


 俺はそう短く返事をしてから。

 無言で、送られてきた画像をスマホにダウンロードした。


「……はああああああああああああああああああああああああっっっ!?」


 それから数秒後。

 困惑と興奮が混じった叫び声が、俺の部屋に響き渡った。

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