第149話 「……しないの?」

「れんじ……れんじぃ……」


 早霧が俺の名前を呼ぶたびに、脳が、思考が、溶けていく。

 舌は絡まり唾液は混ざって、早霧に頭の中をかき混ぜられているみたいだった。


「もっと……んっ……! も、もっと、触って……?」


 早霧は声を震わせながら、まるで自分から押し付けるように身をよじる。

 深いキスをしながら胸を揉むたびにその華奢な身体が震え、漏れる声を我慢する姿はとても扇情的で可愛かった。


「れんじ……」


 息継ぎの度に名前を呼んで。


「れんじ……っ」


 それが終わればまたキスをして。


「れんじぃ……」


 自然と絡まる舌が、また息を乱れさせた。


「はぁーっ……はぁーっ……はぁーっ……はぁーっ……」


 とろんとした淡い色の瞳が俺を見つめる。

 興奮で荒くなる息を、浅く速い呼吸でなんとか耐えているように見えた。

 緩くなった早霧の口元からはどちらのか分からない唾液が垂れる。ダボダボのTシャツが濡れ、その部分だけ色が濃くなった。

 色白で細い首も赤みを帯びて、露出した鎖骨がとても色っぽい。

 その下で存在感を放っている大きな胸の膨らみも、今は俺の手に包まれていた。


「あ……」


 勝手に落ちる視線を戻し、愛しい親友の顔を見つめ返す。

 自然と伸びた左手は、その朱色に染まる頬に触れていた。


「んっ……!」


 触れた瞬間にピクッと震えて目を閉じる早霧が可愛くて、きめ細やかな肌を五本の指でなぞっていく。

 指を滑らせればくすぐったそうに声を漏らし、ちょっと嫌そうに俺の手を顔と肩で挟んできた。

 俺は人差し指から小指が動かせなくなってしまう。

 だから仕方なく、唯一自由な親指を薄桃色の唇に這わせた。


「ふぁ……」


 元々半開きだったその緩い口元から息が漏れる。

 口の端からこぼれていた唾液を戻すように、プルプルの唇を親指でなぞった。

 湿り気を帯びた唇にゆっくりと親指を這わせるたびに早霧から甘い声がこぼれる。

 部室でお互いの唇を触りあったり、俺の部屋でリップクリームを塗りあった時の経験がここで活きるとは思っていなかった。


「へんひ……(れんじ……)」


 早霧は俺の親指を唇ではむはむと挟んでくる。

 甘えた顔でしてくる極上の甘噛みのせいか、早霧の精神年齢が一気に下がったように見えた。


「……脱がすぞ」

「ひゃ……っ!?」


 ――身体はこんなに、魅力的なのに。

 昔から知ってる、俺だけが知ってる甘えん坊な子供らしい一面。

 それが成長した身体とギャップを生み、俺の興奮を加速させた。


 胸を揉んでいた手を離して、下からTシャツをめくりあげる。

 オーバーサイズでダボダボのシャツは脱がしやすく、俺の急な行動に驚いた早霧が顔を動かしたので左手も自由になった。

 いとも簡単に脱がせたシャツは後ろにあるベッドに置かれ、色白で絹のように美しい身体が露わになる。


「綺麗だ……」

「ば、ばか……」


 水色の下着こそ付けているが、恥ずかしいのか早霧はそれを腕で隠した。

 だけどそれによりただでさえ大きな胸が強調されたように見えて、俺の興奮は増していく。


「水色、好きだよな」

「い、良いじゃん別に……」


 俺の家に泊まりに来た時も薄水色の下着だった。

 俺は似合ってるって意味で言ったんだけど、早霧は少し気にしてるらしい。


「ああ、似合ってる……だから、もっと見ても良いか?」

「あ、れ、蓮司……!?」


 少し頬を膨らましながらも早霧が恥ずかしがっている姿が可愛くて。

 その姿をもっと見たくなってしまった俺は早霧の身体をそっと横に押し倒した。


「…………」

「…………」


 ――まるで、時が止まったみたいだった。


 白く長い綺麗な髪がまるで芸術のように床に広がり、その中心には半裸の早霧が仰向けで寝転がっている。恥ずかしさで顔は朱色に染まり、それを他の白が映えさせていた。唯一違う水色の下着もその大きな胸を包んでいることによって存在感が増し、だからこそ細い腰が際立って見えた。その腰の先にあるのは早霧のおへそだ。いつも裸を見てしまった時は大きな胸に注目が行きがちだったけど、今ならじっくり見ることができる形が奇麗なおへそだった。そこから下に行けばオーバーサイズのTシャツの下に隠れていた部屋着のショートパンツが履かれていて、そこから伸びた長い脚は恥ずかしいのか内股に閉じられていた。

 

 そしてそんな早霧を俺は押し倒し、覆い被さっている。

 俺が夢で見たのと似たような状況だけど、夢で見るよりも夢みたいだった。


「――綺麗だ」


 さっきと同じ褒め言葉。

 だけど意味はまるで違っていた。

 目に映る早霧の全てが綺麗で、他に言葉が見つからないんだ。

 昔から一緒にいる幼馴染で、これからもずっと一緒にいる親友を押し倒している。

 興奮はもちろんある、むしろ最高潮だ。

 だけどそれよりも。

 俺が人生で、今まで見た中で、一番綺麗な早霧に目を奪われてしまったんだ。


「……しないの?」

「……え?」


 そんな俺に、早霧が言う。

 あまりの綺麗さに意識を奪われていた俺が見たのは、恥ずかしそうに視線を逸らす早霧の姿だった。

 朱色に染まっていた顔は最高潮に赤くなり、唇はきゅっと紡がれている。

 まるで、俺のことを待っているかのように……。


「……い、良いのか?」

「…………」


 コクリと、早霧が小さく頷いた。


「…………」

「…………」


 言葉はない。

 だけどそれで十分だった。


「…………」

「…………」


 ゆっくりと顔が近づいて。

 俺たちは自然とまた見つめ合う。


「早霧……」

「蓮司……」


 好きという気持ちが溢れて。

 愛しいという想いに包まれて。


「……好きだ」

「……私も好き」

「……ママも好き!」


 俺たちは、身体を重ね――。


「え?」

「え?」

「え? ……あ、ママのことは気にしないで良いから。続けて?」


 ――え?


 ――――――――――――――――



※作者コメント


 続きますん。

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