第148話 「蓮司も、触って……?」

「――んっ」


 唇と唇がゆっくりと離れていく。


「れんじ……」

「さぎり……」


 でも、おでこはくっついたままだった。

 少し前に学校を休んだ早霧のお見舞いに来た時と同じように、お互いのおでこをくっつけたまま俺たちは見つめ合っている。

 だけど、熱を測るつもりはない。

 

 だってどっちも、もう熱にうなされているのだから。


「もう一回だけ、良い……?」

「――んっ」

「んんっ!?」


 おねだりをしてくる早霧の唇を、今度は俺の方から塞いだ。

 淡い色の瞳が目の前で見開かれたけど、すぐにとろんとした目に変わる。

 早霧の両手は俺の首の後ろに回され、俺の両手は早霧の背中に回っていた。


 座ったまま、身体を抱き寄せ合った、ゼロ距離のキス。

 お風呂あがりだとか汗をかいたままだとか、そんなのはもう関係なくなっていた。


「……これじゃ、逃げられないね?」

「……逃げる気も離れる気もないって」

「……蓮司?」

「……なんだ?」

「……大好き」

「――んっ」


 唇を離して、何度か言葉を交わし、また唇が触れ合う。

 俺は背中をベッドの横に預けたまま足を延ばし、その足に早霧が跨るように座ったままキスを繰り返していた。

 いつか見たB級ゾンビ映画のキスシーン。

 その時の濃厚なキスはフィクションだと思っていた。


 でも実際はそれ以上に濃密で、幸せだったんだ。


「……舌、出して?」


 熱を帯びて潤んだ瞳がジッと俺を見つめる。

 そういえば舌を入れたら親友じゃいられなくなるって断られた時もあったっけか。

 それさえももう、遠い昔のように感じる。

 俺の家に泊まりに来た時にはもうとっくに舌を絡めていたというのに、こうやって毎回聞いてくるのが律儀で……本当に可愛い可愛い親友だなと思った。


「んっ……ちゅ……れろっ……ちゅぱ……ぴちゃ……んぅぅ……」


 口の外に舌を出すと冷たい部屋の空気に触れ、それを感じなくさせる熱が早霧の舌から伝ってくる。

 エアコンの風の音に混じって舌と舌が絡まる水音が俺たちの間から生まれていく。

 絡めれば絡めるほどにお互いの境界線は薄まって、頭の中は早霧でどんどん満たされていった。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ……」


 息が苦しくなって、絡めていた舌を離す。

 エアコンで乾いた部屋に、二人の唾液で出来た銀色の線が伸びた。

 顔を紅潮させて息を切らした早霧はとても色っぽくて、言葉を飾らないのならとてもエロい。

 これは体力の差だろう。俺の方が少しだけ呼吸が整うのが早かったけれど、興奮はちっとも収まっていないどころかむしろ増していった。


「かたいね……」

「さ、早霧……」


 早霧の右手が俺の首元からゆっくりと下に這っていく。

 そして止まったのは、俺の胸元の位置だ。

 まるで心臓の音を確かめるように広げられたその手は、とてもくすぐったかった。


「すごくドキドキしてる……」

「そ、そりゃあな……」

「蓮司も、触って……?」

「…………え?」


 その言葉に一瞬だけ思考が固まって。

 早霧は俺の右手を持って、自分の胸に押し当てた。


「さ、早霧……!?」

「ど、ドキドキ……してる?」


 ――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

 俺の右手を伝って早霧の命を繋いでいる鼓動の音が極上の柔らかさの奥から聞こえてくる。


 こうして早霧の胸に俺の手を押し当てられたのは喧嘩した日の朝にもあった。

 だけど今回のこれは全てにおいてレベルが段違いだった。


「あ、あぁ。す、すごいな……」

「蓮司のも、すっごいはやい……」


 これでドキドキするなという方が無理だろう。

 喧嘩じゃなくちゃんとそういう雰囲気で、俺は早霧と身体を重ねながらその大きな胸に触っているんだから。


「こ、このまま……触ってても良いのか……?」

「……そういうの、いちいち聞かなくても良いんだよ?」

「……さっき、舌を出せって言ったじゃんか」

「私は良いのっ」

「――んっ」


 そしてまた、キスをする。

 今度はしっかりと、早霧の舌が俺の口の中に侵入してきた。


「れんじ……んぁ……ちゅ……すき……ぁっ……もっとぉ……すき……ちゅる」


 舌を絡めるキスをしながら、押し当てられた早霧の胸を揉んでいく。

 少し力を入れるだけで形が変わり、それと同時に早霧が甘い声を漏らした。

 だけどそれでキスが止まることはなくて、もっと濃密なものになっていった。



―――――――――――――――――――――


※作者コメント


 続きます。

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