第136話 「~! ~~!! ~~~~!!!!」

「はーい! みんな今日もお疲れさまー! スタンプの時間だよー!」

「よっしゃー! 今日も一番乗りー!」

「だからズルいわよアンタ!」

「ま、待ってよぉ……」


 始まる前に恥ずかしい思いをしたが、ラジオ体操は問題なく終わった。

 昨日やったばかりということもあり、少年少女たち三人の動きは完璧である。

 かく言う俺も早霧も彼らの見本になるように身体を大きく動かした。年に数回しかやらないのに身に染みていたのは子供の頃に繰り返した成果なのだろうか。


 そう考えると、もし子供の頃からキスを覚えていたらどうなってしまっていたのだろう。


「なあなあ、兄さん!」

「ん? どうした少年?」


 そんなありえたかもしれない過去と今に思いをはせていると、いち早く早霧にスタンプを押してもらったツンツン髪の少年が俺を見上げていた。

 何だかんだこの少年少女たちは三人一緒にいるイメージが強かったので、こうして一人で話しかけてくるのは珍しいなと思う。


「兄さんは姉さんのどこが好きなんだ!?」

「ぶっ!?」


 そんな考えは少年の発言により一瞬にして吹き飛んだ。

 他の子や早霧がいる前だとしても、キラキラと目を輝かせる少年を俺は無下に出来るだろうか。


「ちょ、ちょっとアンタ失礼じゃない! で、ですよねお兄さん!?」

「い、いやその……」


 そう彼を止めに来た勝ち気な少女の目もキラキラしている。

 子供ながらの知的好奇心というか純粋さが、俺を襲っていた。


「ち、ちゅーとか、するんですか……?」

「ちゅっ!?」


 とどめに、麦わら帽子少女の痛恨の一撃。

 目深に被った麦わら帽子から見えた垂れ目が、獲物を前にして冷静さを保っている一流のスナイパーのように見える。

 大人しそうに見えてとんでもないクリティカルダメージを叩き出すこの子はあなどれないと思った。


「そ、それはだな……!」

「それは……?」

「それは……?」

「それは……?」


 言葉に詰まる俺に三人の声が奇麗にハモる。

 やっぱり仲良いなこの三人……と現実から逃げたくても逃げられない。だから助けを求めて早霧に視線を送ったのだが。


「…………!」


 早霧がこの中で一番目を輝かせていた。

 胸の前で拳を握りしめ、俺の発言を今か今かと待っている。

 この中で一番子供っぽいと言っても良いかもしれない。

 

「こ、子供っぽくて……可愛いところ」


 だから、それを言うことにした。


「いつも明るくて、どんなことでも楽しんで笑顔を見せてくれる。無邪気なのに芯があって、実は頑張り屋さんなところも知ってるしそれを自慢しないのもすごく良いと思う。でも、俺の前では甘えたがりなところとかすごくグッと来るし守ってあげたくなる弱さも持ってるところとか、いや……違うな」


 一度言葉に出すと、早霧に対する想いが次から次へと溢れてくる。

 学園一の美少女だから見た目はもちろんだが、それ以上に俺は早霧という一人の人間に惹かれていた。

 長い時間ずっと隣にいた中で、これだけは絶対だと言える言葉は一つだ。


「ずっと俺のことを好きでいてくれた。その気持ちが、すごく嬉しいんだ。だから俺は、早霧のことが世界で一番大好きなんだ」


 ただでさえ大好きな人がこれだけ自分を好きでいてくれる。

 こんなに幸せなことはないだろう。


「お、おお……」

「わ、わぁ……」

「あ、あわわ……」


 早霧のことを考えれば考えるほど得られる幸福感。

 それとは裏腹に、俺の言葉を聞いた少年たちは顔を赤くして俯いてしまった。


「さ、早霧……俺なにか変なことを言っ――」

「~! ~~!! ~~~~!!!!」

「――ったぁっ!? な、なんでだぁ!?」


 ――ポカポカポカポカ!!

 不安になった俺は早霧の方を向いたが、その瞬間に何度も肩や背中を叩かれてしまう。力は全く入ってないので痛くはないが、子供たち以上に顔を真っ赤にして前のめりに叩いてくるその勢いに俺は終始圧倒され続けた。

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