第135話 「……子供、好き?」
「あれ? 兄さんと姉さん、めっちゃ顔赤いけど大丈夫か? 暑いから水分ちゃんと取れって母ちゃんも言ってたぞ!」
「またアンタは! お兄さんとお姉さんに馴れ馴れしいわね! 年上の人は敬って言葉知らないの!?」
「け、喧嘩は駄目だよぉ……」
集まったメンバーは昨日と同じだった。
ツンツン髪の半袖半ズボン少年、その少年に突っかかる長髪ポニーテールの勝気少女、そして二人の間でおろおろしている麦わら帽子の少女、の三人である。
そんな元気いっぱいな少年少女たちを前にして俺の心は心中穏やかでは無かった。
何故なら早霧とキスをする直前だったからだ。
もうちょっとでキスできたのにという悔しさと、あのままキスをしていたら少年少女たちの教育に悪影響を及ぼしかねなかったというドキドキは計り知れない。
「そ、そうだねー……! き、今日暑いよねー……!」
そして俺とおそらく同じ心理状況の早霧もわざとらしく自分の顔を手であおぎながら少年たちに笑いかけていた。
だけどその視線は右往左往している。
分かるぞ、その気持ち。
「ほら! 別に姉さんも怒ってねーじゃん!」
「アンタと違ってお姉さんは大人なのよ!」
「あう、いう……」
夏の朝、閑静な住宅街のこじんまりとした公園に子供たちの声が響き渡る。
若いって良いなぁ……なんて思ったり思わなかったり。
「優しい目してる」
「ん?」
「なんていうか蓮司、お父さんみたいな目してた」
「……おう」
判断に困るが、多分褒めてくれたんだと思う。
早霧は両親のことが大好きだし、そんな早霧にお父さんみたいと言ってもらえるのはとても嬉しい。
だけど、朝見た夢のせいというか、親友の意味を思いだしたからというか、早霧が俺をお父さんと呼ぶのはなんていうか……グッと来るものがあった。
「……そういう早霧は、お母さんみたいだったぞ」
言って、後悔した。
お父さんみたいって言われた後にお母さんみたいって返すのはもう、そういうアレではないだろうか。
うわ俺が意識しすぎなだけで早霧は全然そんなこと考えてなかったらどうしよう!
「……子供、好き?」
どうした早霧。
その質問の意図は何だ早霧。
何故微妙に一歩近づいてきたんだ早霧。
俺に何て言ってほしいんだ教えてくれ早霧。
ていうか昨日も同じこと聞いてこなかったか早霧。
確かにお父さんとお母さんなら子供はいるけど今このタイミングこのシチュエーションで言うのは全然意味合いが変わってこないか早霧。
「好き……だけど」
「だけど?」
「……早霧の方が、好きだぞ」
「…………ばか」
これは逃げかどうかと問われれば、逃げである。
だって仕方ないじゃないか。
こんな白昼堂々、公園のど真ん中で、少年少女たちの目の前でして良い会話じゃないって絶対に。
「き、今日もイチャイチャしてるぞ……!」
「き、昨日よりレベル上がってるわね……!」
「あ、あんまり見ちゃ駄目だよ……!」
逃げた先も地獄だった。
少年少女たちが輪になってヒソヒソと話をしている。
「ほ、ほらやるぞ! 暑いからな! ラジオ体操やるぞお前たち!」
自分のやらかしを誤魔化すように手を強く叩いて少年少女たちに指示を出す。
さっきとは別の意味で顔が熱かった。
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