第103話 「……?」
水着で風呂の中にまで入ってきた早霧と良い雰囲気になってキスをした。
手を握り合い、体を重ね、舌を絡めて夢中になってキスをしてから見つめ合って。そしてそのまま早霧は、三十九度のぬるま湯でのぼせてしまった。
嘘だろ?
そう思いながら風呂の中で溺れかけた早霧を一目散に抱き上げて救出し、脱衣所に寝かせたのである。
「ぅぁっぃぃ……」
抜群のスタイルをした身体のラインがピッチリと浮き上がっているスクール水着を着た早霧が、下に敷いたバスタオルの上に寝転がり目を回していた。
目に毒と言うか劇薬。クラスメイトの女子が水着姿で自分の家の脱衣所に倒れているという犯罪チックな光景は、幼馴染や親友と言う免罪符があったとしてもギリギリアウトなんじゃないかと思った。
「早霧! なあ早霧、大丈夫か!」
「うゃー……」
声をかける。
駄目そうだった。
キスをした時とは違うベクトルでボーっとしている。三十九度のぬるま湯にやられてしまったのだ。
これは予想でしかないが、お湯で火照り続ける身体に舌を絡めたディープキスによる酸欠がこのような状態を引き起こした原因ではないだろうか。
「……とりあえず楽にする為に、脱がせるからな?」
「……んぇー?」
起きてしまった事は変えられない。だからその失敗を活かして最善手を選ぶのだ。
人は成長する生き物だ。
俺は仰向けで寝ている早霧の肩に手を置く。
華奢で小さな女性らしい肩にかけられたスクール水着の太い肩ヒモは、寝ていても一際主張している大きな胸を収めているのかかなりキツかった。
これは応急処置、これは医療行為と自分に言い聞かせながら肩ヒモを引っ張って下に下ろしていく。
紺色に隠れた白い肌が徐々に露わになっていった。水着が肩を降り、上腕に差し掛かると同時に胸元の大きな膨らみを上り始める。
まるで初日の出のように顔を見せていく形の良い巨大な丸は、水着に締め付けられていたという事もあってか一気にその全貌を露わにさせて。
「っ!?」
「……?」
思わず息を飲み、手が止まってしまった。
山頂にさしかかろうとしていたのに気づいたら下山していたのである。
目を見開く俺と何が起きているか分からずポカンとしている早霧。
状態も状況も全てがギルティで、俺は捕まらないために即座に別のバスタオルで露わになったその大きな胸を隠した。
「……すぅーっ」
心臓が爆速で爆音を奏でている。一度落ち着いたはずなのに、また高速で運ばれて行く血液がどこか一点を目指して進んでいる気がする。
白いバスタオルの上からでも膨らみの主張は激しく、むしろ水着と違って柔らかな生地に変わったことにより息遣いでの上下運動がより如実に分かるようになった。
ニット生地やモコモコのファッションが男ウケする理由が分かった気がする。これはとても危険だから、俺は大きく深呼吸をした。
「へ、平気か?」
「……うーん」
「お、おいっ!?」
脱衣所の床で倒れながら寝返りを打とうとする早霧。危うく胸にかけたタオルがまた落ちそうになったのを寸前のところで俺は止める。
病弱だった早霧の看病をした事は数知れない。だけどそれはまだ俺達が本当に子供だった時の話だ。今はどちらも成長してるし、好意だって抱いている。
ヤバい。なんていうか、本当にヤバかった。
「……へくちっ」
「さ、早霧っ!?」
そんな状況でも世界は俺を追い詰めていく。
早霧が小さなクシャミをした。
それが仮に可愛くても今この状況では最悪を告げるクシャミだった。
まだ中途半端に水着を着た早霧の身体は濡れに濡れている。このままだと三十九度のぬるま湯で暖まった身体が冷えて風邪を引いてしまうかもしれない。
それだけは何としてでも阻止しなければ駄目だ。
もう、体調を悪くして落ち込む早霧を見たくないのだから。
「……脱がすぞ」
追い込まれたが逃げ道を失った分、覚悟は決まった。
俺は早霧の水着を脱がせる機械と自己暗示をしながら、タオルの内側に手を入れて水着を下ろしていく。
横向きになったせいで左手がふにょんととてつもない幸せを運んでくる柔らかい未知の物体に触れたが、心を無にして水着を引っ張り下にずらしてていった。
濡れた水着を脱がすのはとても骨が折れる作業だ。
いくらスベスベで肌理細やかな肌でも、ピッチリと吸い付いたそれを他者の手で脱がすのは自分で脱ぐのとは格段に難易度が違うのである。
「……うー」
「…………」
何とか腹部まで下ろした所で早霧がまた寝返りを打った。今度は元に戻る方向だ。つまりそれはまた仰向けになったという事で、普段は絶対に見えない部分の一つである早霧のおへそが目の前に現れたのである。
一瞬、呼吸が止まった。
瞬間的な昨日の裸の目撃とは違い、マジマジと見てしまっているからである。それも俺自身の意志で早霧の水着を脱がせているという状況は、ちょっとした刺激でも心臓が急停止してもおかしくはなかった。
とにもかくにも、罪悪感と背徳感が凄まじいのである。
「…………良し」
しばらくの長考の末に、天啓が下りてきた俺は早霧の胸元を隠していたバスタオルを広げて股下までかけていく。
最初からこうすれば良かったんだ。
これなら俺が早霧の身体を見てしまうことは絶対に無いし、濡れた肌も拭けるので一石二鳥である。
「……最後だ」
勝った。そう思った。
何と勝負をしていたかは定かではないが、俺はこの危機的状況に勝利する事が出来たのである。
後はもう蛇足でありウイニングラン。
またタオルの中に手を入れて、パンツを下ろす要領で水着を脱がせば――。
「……ん?」
――脱がせば。
「…………んん?」
――脱が、せば。
「………………んんんんんんんっ!?」
――脱がせ、られない。
早霧の水着は腰の部分で完全に止まって脱がす事が出来なかった。タオルで隠れていてどういう状況なのか分からない。
でも仮説はあった。
人は寝ている時に身体が地面と接している。
その時、身体の大きな部分が特に地面と触れているのは想像に容易いだろう。
発育の良い、女性的な早霧は出るところが出ていて引っ込むところは引っ込んでいる男女共に羨む理想的な身体つきだ。その前面が胸だとするならば、後ろの大きな部分は……尻である。
早霧の大きな尻が脱衣所の床にこれでもかと接しているせいで、濡れた水着という要素と相乗効果を生み出して脱げなくさせていたのだ。
「なんて事だ……っ!」
絶望である。
ここまで紆余曲折あったが、ゴールが目の前だった分そこから急転直下の落差は半端なかった。
頭の中では既に解決策が出ている。
タオルをどかし、腰を、尻を上げて脱がせてやればいい。
でもそれをする……すなわち早霧の全てが見えてしまう事だった。
「……れん、じ?」
「早霧っ!?」
地獄に救いの手、有り。
もうこれしかないのかと覚悟を決めようとしたその時、水着の一部が脱げて楽になってきたのか俺の名前を呼ぶ早霧の声がする。
助かった。そう思った。
だって早霧の意識がハッキリしたのなら、自分で脱ぐ事が出来るのだから……!
「なに、してるの……?」
しかしそれは救いの手ではなかった。
俺を地獄の底に叩き落して罰を執行する、閻魔大王の手だったのである。
寝転んだまま顔だけを上げている早霧はまだ本調子じゃないのか目をパチクリと瞬きさせている。その視線の先に映っているのは俺だ。
スクール水着の上半身部分を脱がせてタオルを被せ、その下も脱がせようとタオルに手を突っ込んでいる、現行犯な俺だったのである。
「さ、早霧これは違うっ――!?」
何が違うと言うのか。
何も違わないじゃないか。
まるで神がそう言いながら断罪するが如く、まさに言い訳がましさ全開な……そんな時だった。
――ハラリ。
「…………え」
「…………あ」
顔だけじゃなくて上体を起こした早霧によって、俺は昨日に引き続き重力の、万有引力の凄さを思い知る事になる。
身体にかけていただけのタオルが落ちて、隠していた早霧の綺麗で大きくて形の良い柔らかな膨らみの全てが空気の元に晒されたのだ。
しかもそれだけに留まらずめくれたタオルは大盤振る舞いと言った感じで、早霧の腰元で脱がし途中の水着に俺が手をかけているという言い訳も何も出来ない証拠まで白日の元に暴いたのだった。
「――ひっ」
短く早霧が息を吸う。
――ああ、昨日もこんな感じだったな。
そんなデジャヴを感じたのも束の間、とんでもない声量の悲鳴が脱衣所の中に響き渡るのだった。
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