閑話3  『早霧日記その3』

 七月十八日(月)

 今日も私、八雲早霧は日課である日記を書いている。

 金曜日、蓮司からキスをしてくれた事が嬉しくて嬉しくて土日は日記をサボっちゃった。だから今日からまたちゃんと書かなくちゃね。


 今日は祝日だけど学校があった。だからお寝坊な蓮司を起こしに行ってあげました、えへん。

 ……えっと、本当は、嘘です。

 金曜日の夜は興奮で眠れなくて、土曜日にずっとお昼寝をしていたせいで生活リズムがおかしくなっちゃったって、これはヤバいなあって思った。

 だから日曜日の夜にちゃんと寝るぞーって夜八時に寝たら朝の三時半に起きちゃっただけなんだよね。

 それで部屋にいてもモヤモヤして、早く蓮司に会いたいなーって気持ちがどんどん強くなるからそれを発散する為にお散歩に行った。

 そしたら蓮司がいつも待ってくれている通学路の公園で、蓮司のママがヨガをしていた。早起きだ、凄い。


 昔から優しい蓮司のママが家の合鍵をくれたので、こっそり起こしに行く事にした。部屋に行くとまだ蓮司は眠っていて、寝顔が凄い可愛くて。ちょっとぐらいなら良いよねってベッドに潜り込んだんだけど、寝ぼけてる蓮司に抱きしめられて……。


 すっごく、嬉しかった。


 その後は起きた蓮司とその、色々あって、服が着崩れた所とか、見られちゃって……蓮司のママにも見られちゃったけど、まあ、うん……。


 そんなこんなで蓮司と手を繋ぎながら、一緒に部活に行ったよ。

 じぶけんの部室にはゆずるんと長谷川くんがいて、いつも通り元気で楽しそうだった。

 勘の鋭いゆずるんが私達を見て何かあったのと疑ってたけど、そこは私。ちゃんと誤魔化せていたと思う、うんうん。


 そしてクラスメイトのひなちんがお客さんでやってきた。

 ひなちんは首絞めが好きなんだって!

 それで蓮司の事を同志って呼んで、すっごく仲が良さそうだった。

 そんな蓮司が、大人しいひなちんが困らないようにって一度休憩して二人でジュースを買いに行った。

 蓮司は優しくて、人の事をちゃんと見てくれる。

 でも、二人で行っちゃったのはなんていうか、すっごくモヤモヤした。

 いつも私が待たせてばっかりなのに、待つ方はこんなに不安で苦しいんだなって思っちゃって……帰りも、遅くて……。

 蓮司は文句を言わずいつも私を待ってくれているんだって思うと、胸の奥がどんどん熱くなっていた。

 どんどんどんどんどんどんどんどん、好きになっちゃう。


 だから帰り道に寄ったいつもの公園で、金曜日の事を私は聞いた。

 蓮司からキスをしてくれた事。

 それに蓮司は、親友だからって……言ってくれた。

 好き、蓮司が好き、世界で一番好き。

 私のワガママに付き合ってくれて、私を待ってくれて、私の隣にいてくれて、私の欲しい言葉をくれる蓮司が、好き。

 金曜日ぶりのキスはすっごく気持ち良くて、ふわふわして、幸せだった。

 でも、れ、蓮司が舌を入れてきた時……驚いちゃって……思ってもいない事をいってしまった。

 本当はもっとしてほしかったのに、このまま蓮司の優しさに甘えていっちゃう自分が怖くて、頭が、ぐちゃぐちゃになって。


 ――駄目って思ったのに、その優しさに甘えて、嘘をついた。


 けど蓮司はそんな私も許してくれて、大好きって言ってくれた。 

 私は何もしてあげられてないのに、蓮司は本当にズルいと思う。


 大好きって気持ちがどんどん膨れ上がっていく。

 自分でも我慢できそうにない私は、やっぱり悪い子だ。

 だから家に帰った後もその事がずっと頭の中でグルグルグルグルグルグルグルグル回っていて、また、眠れなかった。

 


  ◆ 

 


 七月十九日(火)

 一生の不覚。

 寝不足なのにまた朝まで起きちゃって、体調を崩した。寒気がして頭がグワングワンして、学校に行って蓮司に会いたいのににママに止められちゃったから仕方なくベッドに入ると、気づいたら寝ちゃってたんだよね。


 そこで、夢を見た。

 昔の蓮司と、私の夢。

 今よりも身体が弱くて迷惑ばかりかけていた私の隣に、いつも蓮司がいてくれた懐かしくて幸せな夢を。

 あの頃からずっと蓮司の事が好きだったなあ。

 それは今もだけどね、いやむしろもっとだ。当時の私には負けないよ。

 

 だから起きた時、今の本物の蓮司がいた時は本当に驚いた。

 スマホには凄い数のメッセージが届いていて、私の事が心配で学校終わりに来てくれたんだって。

 そういうところが、ほんとうに、すき。

 だから昨日の事があるのに私はまた甘えちゃって、おでこで熱を測ってもらった。

 唇じゃなくて、おでこのキス。目の前にある蓮司の顔。唇より硬いのに、熱は無い筈なのに、私の頭はボンヤリとしていく。

 金曜日からずっと、蓮司の方が積極的になってくれる。

 嬉しい、すっごく嬉しい。もっと蓮司からキスをしてほしい。

 でももし風邪だったら蓮司に移しちゃう。


 それだけは、絶対に駄目だ。


 風邪になって、一人ぼっちになる辛さは、他の誰よりも私が知っているから。

 なのに、蓮司はそれでもかまわないって言ってくれて、無理やり私にキスをした。

 何度も、何度も、嫌だって言ってるのに。優しくて、意地悪なキスだった。


 そんな蓮司の優しさが、同時に少し苦しかった。

 私は何もしてあげられてない。

 ずっとこれだけを考えている。

 だからその優しさに紛れて、お礼をしようって思った。

 蓮司も男の子だし、女の子の、私の身体には興味がある筈……。

 は、恥ずかしかったけど……もし蓮司が我慢できなくなったら、それで良いと思った。だって私も蓮司の事が好きだから。

 けどそんな私の卑しい気持ちとは別に、蓮司なら大丈夫だと思っていた。

 

 そして、本当に大丈夫だった。

 蓮司は優しい、蓮司は優しい、蓮司は優しい、蓮司が優しい。

 だから、私は苦しい。

 けれどそんな私を、蓮司は優しいって言ってくれる。

 違う、優しいのは蓮司だ。

 自分の時間を使って、私の隣にいてくれる。いたいって、言ってくれる。

 嬉しさで頭がどうにかなりそうなのに、その嬉しさを次々に与えてくれる。

 本当に蓮司は、ズルい。

 か、覚悟した筈なのに裸を見られたのは恥ずかしくて、それよりもママにこの状況を見られた方が恥ずかしくて、晩御飯の時は、生きた心地がしなかった。


 別れ際、恥ずかしがる私にまた蓮司からキスをしてくれた。

 私が元気じゃないと、困るって言ってくれた。


 ――私の事を、待ってると言ってくれた。


 ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。

 本当に蓮司は、れんくんは、かわらないや。

 だからだいすき。

 ひとりでなやまなくても、れんじがいてくれる。

 もうがまんしなくていいんだよね?

 あたたかいきもちになって、きょうはぐっすりねむれたよ。 

 なんちゃってね。


  ◆



 七月二十日(水)

 早霧ちゃん、復活!

 すっかり元気になった私は教室で蓮司を見つけたら嬉しくなって、とりあえず抱きついた。

 やっぱり好き、ずっと一緒にいたい。

 クラスの皆は驚いていたけど、そんなのはもう関係ない。蓮司も良いって言ってくれたし、今の私は無敵だ。

 無敵な私は我慢できなくなって、いつもの屋上前の階段で蓮司とキスをした。

 蓮司が好き、カッコよくて、頼りになって、大切に想ってくれて、でも照れた時は可愛い、そんな蓮司が好き。

 私だけが知ってる蓮司の顔。それだけは他の人には見せたくなかった。


 掃除の後の部活動、ひなちんも一緒!

 座る場所が無かったから私は蓮司の膝に座っちゃった!

 すっごくすっごく恥ずかしかったけど、それ以上に蓮司を感じられて幸せだったし、じぶけんの皆の前なら大丈夫だって思えた。

 けど、まさかひなちんに私の本心を当てられるとは思ってなかったなぁ……。


 今度は私がひなちんを連れ出して、一緒にジュースを買いに行って、その時に、えっと、その、色々と、お話をしました。


 そうしてたら前にちょっと困っていてアドバイスをした後輩くんが私に話しかけてきたんだ。この雰囲気は知ってる、告白だ。

 でも彼は私に気を遣って明日でお願いしますと言ってくれた。中には自分の気持ちだけをぶつけてくるような人もいたけど、この子は優しいから大丈夫だろう。だから私もちゃんと自分の気持ちを伝えて、その勇気に答えてあげなければいけないよね。


 そう思っていたのに不安になった。

 今まではこんな事無かったのに、蓮司の事が頭から離れなかった。

 いつも告白されて待たせている私に愛想をつかして、何処かにいなくなっちゃうんじゃないかって思った。

 こんな何もしてあげられない私に比べて、ひなちんはとっても立派だったし。


 だからもっと不安になって……そんな不安さえも蓮司にはお見通しだった。

 ひなちんの素晴らしいアドバイスで私が何かしてあげようとしても、それは親友がする事じゃないって、分かってくれている。

 だから大好き。

 本当に大好き。

 何度言っても足りないぐらい、大好き。


 駄目駄目な私を、大好きな親友が、蓮司がいつでも待っててくれてるから。



  ◆  



 七月二十一日(木)





 れんじのばか





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第三章 早霧はキスをされたい 完


次回


第四章 俺たちはキスをさせたい



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