番外編2 『プレゼントは?』

※こちらはクリスマスとかいう恋人達の宴に乗じましたが、本編の時系列が夏休み前なのでやれるタイミングがなくて無理やりぶちこんだ特別編となります。

 その為、本編から少し先のお話と捉えていただければ幸いです。


――――――――――――――――――――


「ねえねえ、蓮司」


 ある休日の事である。

 今日も暇をもてあました幼馴染こと、早霧がいつものように俺のベッドの上を占領して寝そべりながら人の漫画を勝手に読みながら不意に呟いた。


「プレゼントは?」

「は?」


 そのあまりの図々しさに俺が思わず聞き返すと、不満そうな淡い色の瞳と目が合った。


「だから、プレゼントは? ほらもう、そーいう時期でしょ?」

「……お前の首に巻いてるものを言ってみろ」

「んー?」


 暖房が効いた部屋の中だというのに早霧の首元には赤いマフラー巻かれている。その赤色は早霧の雪のように白くて綺麗な長い髪と見事に調和していて、我ながら良い買い物をしたと思った。


「蓮司がくれたマフラー!」

「……それがあるのにもっと寄こせと言うのかお前?」


 強欲な幼馴染である。

 せっかく少ないお小遣いを貯めながら足りない分を母さんに土下座してニヤニヤされながら前借りしたお金で買ったというのに、まだ欲しがるらしい。


「そーじゃなくて、蓮司のだよ」

「……俺の?」

「うん、蓮司は何か欲しいものある?」

「…………」

「え、何で黙るの?」

「……お前の事だから変なサプライズでも仕掛けてくると思ったから、予想外に直球で驚いている」

「私の事何だと思ってたの?」


 さっきよりも不満そうに頬を膨らませる幼馴染。

 なんだかこんなやりとりを前にもしたような気がした。


「しかしプレゼントか……」


 このやりとりを一度はじめると水掛け論で口喧嘩になりかねないので話題をプレゼントの方向にシフトする。

 欲しいもの、と言っても最近は早霧に何をプレゼントするかで悩みに悩んでいたから俺自身の事なんて何も考えていなかった。

 だから急に何か欲しいものあるって聞かれてもなぁ……。


「…………」

「……え、私?」

「お前の脳内どうなってるんだ?」

「だって蓮司がもの欲しそうな顔で私を見るから……」


 見てない。俺が何を言うか期待している早霧を見ながら考えていただけだ。ていうかそれで真っ先に俺が欲しいものが自分だという考えに至る時点でこの幼馴染は自信家が過ぎる。


「わ、私の唇は安くないよ?」

「……どの口が言ってるんだ?」


 早霧はハッとして自分の口元を俺がプレゼントした赤いマフラーで隠した。早速有効活用してくれて嬉しいが、そんな使い方をされるのは少し複雑である。


「そー言って私の口を見ようとするのエッチだと思う」


 マフラー越しにくぐもった声。

 何が欲しいか聞いてきたのに変な所で強情な幼馴染に俺は溜息を吐きながら、その隣に座る。急に近づいたからか、早霧の身体がビクッと震えた。

 俺を猛獣か何かと勘違いしているのかお前は。


「……じゃあプレゼントは、口が見たい」

「きゅぇっ!?」


 しかしいつまでもやられっぱなしの俺じゃない。

 早霧が逃げるよりも先に俺もそのまま寝転がり、ベッドの上で向き合うと鳴き声みたいな変な悲鳴を上げた。


「早霧の口が見たい」

「え、えええ、エッチ蓮司!」


 赤いマフラーに包まった早霧の白い顔が途端に赤くなる。口を見たいだけでエッチ呼ばわりされると思っていなかった。


「プレゼントは何が良いかって聞いたのはお前だろうが」

「ほ、他には無いの!?」


 俺が行動に移すと思っていなかったのか大焦りの幼馴染の肩を掴んで物理的にも逃げ場を無くす。

 言葉だけ切り取ると犯罪的な香りもするが俺と早霧の関係かつ俺のベッドに勝手に寝そべっているのはコイツなので、俺が俺のベッドの上で何をしようが勝手だ。


「……少し、考えたんだが」

「う、うん」

「……早霧がいるなら、他に欲しいものなんてなかった」

「…………ふぇ」


 甘い吐息を感じたのは、まるで緊張が解れるように口を隠していたマフラーがずれたからで。そこに隠れていた小振りで綺麗な口と、薄桃色の唇が露出する。それは少しだけ湿っていて、いつもよりも艶があった。


「え、あっと、その……」


 あたふたし始める幼馴染をよそに、首に巻かれたマフラーの端を引っ張って俺の首にも巻いてみる。早霧の長い髪にはロングマフラーしかないと、マフラー売り場で即決したのは大正解だった。

 搦め手ばかりで直球に弱い早霧は、忙しなく視線を右往左往させながら。


「れ、蓮司……?」


 おずおずと、真っ赤になって俺を見つめて。でもいつの間にか、マフラーだけじゃなくてお互いの足も絡まって。


「……見るだけで、良いの?」

「……良い訳ないだろ」


 恥ずかしそうに言う早霧を前にして我慢なんて出来る訳もなく。

 俺のプレゼントに二人で包まれながら、次のプレゼント交換会が始まるのだった。



――――――――――――――――――――


「プレゼントは?」 完


※作者コメント

 本編でキスばかりしているので、たまにはキスをしない(キスをするまでの)話を書いてみました。

 こんなん……こんなんもう絶対アレですやん……!

 いつもより糖度多めで、素敵なクリスマスを送っていただけましたら幸いです。

 かくいう私は……(吐血)


 それでは、次回からは三章の続きをお楽しみください。

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