第56話 「……うわげばがぶっちゃっー!?」
「れっ、れれっれれれれっれえれれれ蓮司ーっ!?」
「何だ?」
「な、なななな何だじゃなくて! 何してるの!?」
「……後ろから抱きしめただけだが、嫌だったか?」
「い、嫌じゃないけどっ! どどどっ、どうして急にっ!?」
「こうでもしないとお前、俺の話を聞こうとしないだろうが」
「そう、だけどぉ……!」
早霧は俺が知る中で人の話を聞かない人のトップである。
それはそうと、俺の腕の中でジタバタと悶える半裸の幼馴染を押さえるという行為はとても精神とか精神とか精神とかをすり減らしていた。
抱きしめている早霧の上半身は裸である。変な場所に触ったら一大事だ。
触りたい、俺も男だ、めちゃくちゃ触りたい……そんな煩悩を押さえ込みながら、親友の身体を押さえ込んでいた。
押さえっぱなしの人生かもしれない。
「……親友なら、良いだろ?」
「……あぅ」
必殺の一撃を言ったら、めちゃくちゃ効果的面だった。
はたして半裸の相手を後ろから抱きしめて大人しくさせるのが親友としてセーフかどうかなんて些細な問題は考えないものとする。
「……ずるいよ」
「……お前だって」
前に回していた手を早霧が掴む。いや、あの、お前が掴むとその、防御が余計に薄くなって……いや今はそうじゃなくて!
「俺はお前のお願いなら、何でも聞くからな」
「……えっ?」
「早霧は昔からずっと我慢してきたんだ。だから楽しむ手伝いを、それぐらいさせてくれたって良いだろう?」
むしろ押さえっぱなしなのは、俺じゃなくて早霧の方である。辛く孤独な想いをずっとしてきた。早霧はもっと幸せになるべきなんだ。
「……で、でも」
「でもじゃない。嫌だったらお前みたいなワガママ姫、いくら可愛くたって途中でギブアップしてるわ」
「わ、ワガママ姫って何!? そ、そんな事思ってたの!?」
「当たり前だろ。俺を聖人か何かと勘違いしてるのかお前?」
「い、言い方ってのがあるじゃん!」
「……早霧の隣にいたい」
「……」
「……これじゃ駄目か?」
「…………ううん」
よし、ようやく黙ってくれた。
いくら普段から思っている事とは言え、らしくもない事をしてらしくもない事を言うのは顔から火が出そうなぐらいに恥ずかしい。
さりげなく可愛いと褒めたの、気づかれなくて良かった。
他人に早霧の良さを言うのならともかく、本人に直接言うと調子に乗るからなコイツ。
「……駄目じゃないよ」
「……すーっ」
ゆっくりと早霧が俺に寄りかかってきて、ゆっくりと俺は上を向いた。上半身裸で目のやり場がそこしかなかったのである。
「……蓮司?」
それに気づいていない早霧が俺を見上げる為に少しだけ身をよじる。
すると、どうなるか?
隠れていた部分が、見えなかった部分が見えてしまって。
「…………ふ、服……着てくれ……」
俺からの切実なお願いは、めちゃくちゃ震えた声だった。
「…………え?」
キョトンと、少し赤くなった瞳を丸くさせた早霧が長い沈黙の後に。
「……うわげばがぶっちゃっー!?」
「うおおっ!?」
謎の悲鳴を上げた。
とても学園一の美少女とは思えない汚くて意味不明な叫び声だけで収まらず、俺の腕の中で暴れ出して!?
「…………」
「…………」
二人して、またベッドの上に寝戻った。寝戻るってなんだと思ったが、多分この表現が一番適している。
いやそんな事より今の状況の方が危機的で。
俺の腕に収まったまま向きだけが変わり、ベッドの上で向かい合っている。
どちらかが上じゃないのがいかにも俺達らしいのかもしれないが、それはそれとして早霧は上半身裸で。
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
「さ、ささささ早霧ぃっ!?」
今度は言葉にならない悲鳴を上げて、俺に抱きついてきた。
半裸で、上半身裸で!!
ワイシャツ越しに今までにない柔らかさがそこにあって!
「こ、これは不味くないか!?」
「こ、こうしないと見えちゃう!!」
ジタバタ、ギシリギシリ。
ベッドの上でぐんずほぐれつの大パニック。
離そうとしても早霧がくっつき、ギシギシとベッドが軋む音だけが響いて。
「落ち着け早霧! これは本当に不味い!」
「だ、だだだだだってぇ!?」
ギシギシギシギシギシギシギシギシ!!
ベッドが奏でる悲鳴と軋みの二重奏。
そこにガチャリと、新しい音が加わって。
「早霧ー? 蓮司くーん? ただいまー。凄い音だけど何かあっ……」
「…………あ」
「…………お」
早霧のお母さんが扉の前で固まって。
俺達も、ベッドの上で抱き合って固まって。
「……あらあら、うふふふふ」
ガチャリと、扉が閉まっていった。
――――――――――――
※作者コメント
まだイチャイチャと3章の途中ですが、次回はクリスマス特別編となります。
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