第53話 「……私だって?」
「いじわる」
「……すまん」
「いじわる」
「……すまん」
「……いじわる」
「…………すまん」
俺は猛攻を受けていた。同じ、ベッドの中で。
共通の枕を使って会話をする事がピロートークと言うのならこれも該当するかもしれない。
片やダボダボの古着、片や学校の夏服。衣服の乱れは無く、端から見たら風紀だけが乱れていた。
「……いじわる」
「……すまん」
何故こうなったかと言えば答えは簡単で。
キスを我慢できなくなった俺が早霧に何度もキスをしてしまい、そして拗ねた早霧によってベッドの中……正確には同じタオルケットの中に引きずり込まれた。
拗ねているのに足を絡めてきている。全面的に俺が悪いとは言え、早霧は早霧で大概だと想った。
「……蓮司がいる」
細くひんやりした右手が俺の頬に触れた。早霧の体温が下がったのか俺の体温が上がったのかは分からない。ただその手が心地良くて、隣にいる幼馴染から目が離せなくなる。
「夢にも、蓮司がいた」
「夢?」
「うん、夢。昔の……」
俺も時々、昔の夢を見る。それと同じだろうか。
「今と同じで優しいけど、こんないじわるじゃなかったもん」
「お前だって……」
こんなワガママじゃなかったと言いかけて、やっぱりワガママだったと言葉を止めた。
「……私だって?」
けどそれじゃあワガママ姫は許してくれそうになくて、淡い色の瞳が続きを言ってと視線だけで圧を送ってくる。
「こんな、こんな……」
可愛くなった、素敵になった、魅力的になった。
頭の中で真っ先に思いつく言葉達が、昔からそうだっただろうと否定されていく。早霧の何が変わったのか。いや、変わったのは俺の方で、この関係そのものかもしれない。
「……こんな、親友になれるとは思ってなかったよ」
「あ……んぅ」
ベッドの中で抱き寄せて、キスをする。
唇から、身体から、触れあい重なった幼馴染の全てが温かい。
「れ、れん……じっ……」
甘い吐息と共にその身をよじった。けれど早霧から絡んできた足と重なる身体が逃げ場を無くす。
親友なのにキスをする関係。
俺をずっと悩ませていた悩みは、早霧の事が好きだと自覚した時点でかなり薄れていた。まだ心の奥には残っているが、それと目の前にいる親友の好意と可愛さを受け入れないのは別問題である。
「れ……っ……んんっ……」
でも、俺から舌は入れない。
それだけは早霧が言った言葉を尊重する。
その代わりに何かを喋ろうとして、息継ぎをしようとして、逃げる唇を追いかけて優しくついばんでいく。いつしか俺の部屋のベッドの上でやられた時の仕返しだ。
「……はぁ……はぁー……っ」
息も絶え絶えに、いつの間にか涙目になっている幼馴染が完成していた。
泣いているというよりはトロンと熱を帯びて潤んでいて、その熱い吐息が至近距離で俺の顔に触れる。
お見舞いに来たというのに、むしろ悪くさせてしまっている気がしたが。
「……いじわる」
今度は早霧から、キスをしてきた。
「……いじわる」
身を寄せて。
「……いじわる」
腰に手を回して。
「……蓮司の」
逃げないように。
「…………親友の」
離さないように。
「……いじわる」
冷房の効いた部屋で、同じベッドの中で。
お互い汗だくになるまで密着して、親友としか出来ないキスを繰り返した。
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