番外編1 『ねえねえ。〇ッキーゲーム、しよっか?』
※こちらは★1000達成記念と11月11日の〇ッキーの日というどう見てもキスしろと言わんばかりのイベントに乗じた特別編となります。
その為、時系列の明示はしませんが少し先のお話と捉えていただければ幸いです。
――――――――――――――――――――
「ねえねえ。〇ッキーゲーム、しよっか?」
ある休日の事である。
部屋に突然やってきた早霧がコンビニ袋から長方形の菓子箱が取り出し、笑顔で俺に差し出してきたのだった。
流石にコンビニに行ったからか、首元ヨレヨレのダボダボTシャツの上に薄手のパーカーを羽織っている。それはそれで胸元は隠せるがスタイルの良い身体のラインは隠せないだろう。
「……何で〇ッキーゲームなのにおっぱい見たの?」
「……き、気のせいだろ」
淡い色の瞳がジトっと睨んできて、俺はサッと顔を逸らした。
「……エッチ蓮司」
「…………」
電子レンジみたいな発音だったが、俺はそれに何も言えなかった。
「……じゃあ、しよっか?」
この切り替えの早さが早霧である。
わざわざコンビニに行って俺の部屋に突撃してきたぐらいだ、最初から心は決まっていたのだろう。
当然ここであーだこーだ言った所で俺に拒否権が無いのは分かっているので無駄な抵抗はしない。
決してやりたい訳じゃない。そう、決してだ。
「〇ッキー食べるの久しぶりッキー」
「何だその謎の語尾は」
安易過ぎる妙なキャラ付けをしながら長方形の封を開けていく。中には袋が二つ。その中に棒状のクッキーをコーティングしたチョコ菓子が入っている。
袋の一つを破りながら早霧はチョコ側の部分をその薄桃色の柔らかな唇で挟むと、俺のベッドの上にゴロンと仰向けで寝転がっ……は?
「ひーほー?(いーよー?)」
その状態で俺に視線を向け、おいでおいでと両手を広げた早霧。
いや、待て待て待て待て待て待て……待ってくれ。
「おかしくないか!?」
「ほへ?」
「まず口から離せ!」
「……わがままだなぁ、蓮司は」
カリカリと一本の〇ッキーが早霧の口の中に消えていった。
不服そうな視線が俺に飛んでくる。文句を言いたいのは俺の方なんだが。
「絶対やり方違うだろ!?」
「端から同時に〇ッキーを食べるのが〇ッキーゲームでしょ?」
「寝る意味は何だ!?」
「だって普通にやってもドキドキしなくない?」
「するが!?」
未だにドキドキだが!?
「でもこっちの方が……ドキドキ、するでしょ?」
「ぐっ……!」
新たな一本を袋から取り出し、ニヤケ顔の横でチラつかせる。
ぐぅの音も出なかった。
「あーこのままだとぜんぶたべてなくなっちゃうなー」
カリカリと音がして。
酷い棒読みで二本目の〇ッキーが消えていった。
「こ、後悔するなよ……!」
「きゃー!」
早霧との付き合いはとても長い。
ここまでコケにされて黙っていられる俺ではなかった。
とんでもなく三下チックなセリフを吐きながら、仰向けで寝転がる早霧の身体に覆い被さった。ふざけてベッドの上で身をよじりながら、幼馴染は楽しげに笑う。
その白く長い髪が、ファサッとベッドに広がっていた。
「……はい、チョコの方あげる」
「……んむ」
真下から俺の口に手渡しされる〇ッキー。まるで餌付けだ。
それを俺は唇に挟む。ほろ苦いチョコの味と風味が口の中に広がった。
「ほら、私にもちょうだい?」
「んん……」
引き寄せられるように、〇ッキーを咥えながら顔を下ろしていく。
事故が起きないように両膝と両膝は立てながら、このまま降りたら〇ッキーが突き刺さってしまうので細心の注意を払って。
その為、ゆっくり、ゆっくりと〇ッキーのクッキー側が早霧の唇に近づいていき。
「あむっ……」
それを早霧は餌を与えられた小鳥のように咥えたんだ。
「…………」
「…………」
俺の唇と早霧の唇が細長い棒菓子一本で繋がった。
普段しているキスとは違う、〇ッキーという存在が物理的な距離を作る。
キスという慣れないが馴染んでしまった日常に〇ッキーというスパイスが加えられたこの行為は、非日常と背徳感を味わうには十分過ぎて。
「はむっ……んむっ……」
「……っ!?」
クッキー部分を早霧がついばむ度に、口の中の動きが〇ッキーを伝って俺の口内に届けられる。
まるで挑発するように、見せつけるように、早霧は唇を動かしていく。
「はひゃふ……(はやく……)」
「……んっ!?」
熱の込められて視線と、咥えたままの吐息と漏れた声。
そこで気づいた、気づいてしまった。
――これ、俺が食べ進めないといけないんじゃないか?。
早霧は仰向けに寝たままじゃ……首を上げて無理な体勢を取らないと食べれない。
は、嵌められた……!
それに気づいたとき、早霧は〇ッキーを唇で挟んだまま笑ったんだ。
「んー、むー、むー?」
「んんっ!?」
その間も早霧の攻撃、もとい口撃は〇ッキーを伝って俺の口を弄ってくる。
覚悟を決めなければならない。
折って敗北なんて選択肢は、この時点で消え去っていた。
「はむ……あむっ……」
――カリカリ。
〇ッキーを噛むたびにクッキーが砕ける音がして、口の中にほろ苦さが広がっていく。
それと同時に早霧の顔が近づく。俺が夢中になる、悪戯的な笑みが、〇ッキーを咥えたまま、見つめてくる。
「ん……ふぅ……」
噛み砕きながら息を吐く。
そっと〇ッキーを口から離しても、棒菓子は早霧の口から直立を保っていた。
完全に待ちの体勢となっている。
小鳥のようだと比喩していたのに、いつの間にか俺が……唇という極上の餌を求める雛にされていたんだ。
「んむ……」
「んっ!?」
しかも時折、待っているだけじゃ飽きた早霧が口撃をしかけてきて、細長い〇ッキーが揺れるんだ。
折れたら……ご褒美にはたどり着けない。
それだけは阻止したかった。
「んふぁっ!?」
「…………」
――カリカリ、カリカリ。
早霧の頬に手を添えて、〇ッキーを噛み進める。
彼女は驚いて身体を一瞬強張らせたが、俺が咥えていたので〇ッキーが折れる事は無かった。
「…………」
「…………」
――カリカリ。
〇ッキーが削れていく。
「…………」
「…………」
――カリカリ、カリカリ。
早霧の顔が、近くなっていく。
「…………」
「…………」
――カリカリ、カリカリ、カリカリ。
愛しい顔が朱色に染まって、熱を帯びた息が触れあうと。
「……んぅ」
「……んっ」
唇が、重なって。
溶けるような柔らかな感触と、クッキー部分の塩味が口の中に広がった。
「……んっ……ちゅ……あむっ……」
「んむぅっ!?」
塩味が下から、俺の口内にあるチョコを求めて襲ってくる。
唇をこじ開け、早霧の熱が俺の中に入ってきた。
それに驚いた俺は、反射的に唇を離してしまったんだ。
「…………いじわる」
とろんとした瞳で言っても、可愛いだけだった。
「ま、まだあるだろ……」
だから俺も、素直にはなれなくて。
「じゃあ、次は……」
ほとんど唇が触れ合う距離。
そこに〇ッキーが割り込んできて。
「……横〇ッキーゲーム、しよっか?」
その棒チョコレートの茶色が、横向きで薄桃色の唇に乗ったんだ。
「……ああ」
気づけば、身体は重なっていて。
「……んっ」
「……んぅ」
ゲームは、すぐに終わった。
まだ、〇ッキーは五十本以上残っている。
――――――――――――――――――――
「ねえねえ。〇ッキーゲーム、しよっか?」 完
次回より第三章です。
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※作者コメント
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