閑話1  『早霧日記その1』

※早霧視点。

――――――――――――――――――――


 七月四日(月)

 今日も私、八雲 早霧は日課である日記を書いている。

 日課と日記って、『か』と『き』しか違わないよね。

 えっと、ああ、んー……何から書こうかな?


 元々私は病弱で、子供の時は外に出る事も許されなくて……でも勉強はしなくちゃいけなくて、けれど勉強は嫌いで……とりあえずこうして日記でも書いておけば何かやった気になれるからって始めたのが、気づいたらずっと続いちゃってて、今がある。


 押入れの中のノートの数が凄い事になってるのが、ちょっとした自慢だ。


 さて、えっと、そんな自他共に認めちゃう文学少女で薄幸の美少女である私には、幼馴染の男の子がいる。

 赤堀 蓮司くん。

 うわ、日記だからって『くん』呼びしたけど違和感が凄いこれ!

 蓮司は蓮司、うん。

 昔からずっと隣にいてくれて、私を励ましてくれたかけがえのない『親友』だ。


 そんな彼と今日、初めての……キスをした。

 うわあああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!

 やっちゃったあああああああああああああああああああああああああっっっ!!!


 いや私は悪くない。

 だって蓮司があんな思わせぶりな事を言うから!

 その後に、『親友』だって……!

 『親友』は私にとって特別な言葉……蓮司と、私だけの……。

 

 蓮司は覚えてるかな?

 ううん、忘れてたら怒るかも。

 私がいてほしい時にいてくれて、私が欲しい言葉を突然くれる。

 ぶっきらぼうなのに優しくて、堅物なのに慌てると可愛くて。


 そんな蓮司の事が、昔から……好き。


 あー、明日からどう話そう! いつも通りで大丈夫かな?

 平常心、平常心。

 あの蓮司の慌てっぷりなら、なんとかなる筈……なるよね?


 初めてのキスは……すっごい良くて、ぶどうジュースの味がした。

 蓮司の好きなジュースの味だ。


 これからずっと、ぶどうジュースを見る度に思い出すんだろうなぁ。


  ◆


 七月五日(火)

 えっと、なんとかなった。

 それから今日もキスしちゃった。

 スピード感!


 蓮司は寝不足だったみたいで授業中に居眠りをしちゃった。可愛い。

 その寝不足の理由も、私とのキスをずっと考えてくれたんだと思うと……うあああうっ!

 は、恥ずかしいので省略!

 

 二回目のキスは二人きりの教室で。

 子供の時にずっと付き添ってくれた蓮司を、今度は私が膝枕で介抱できたのが……すっごい嬉しかった。

 私、蓮司の役に立ててる!


 でも、どうしよう。

 蓮司とのキス……癖になっちゃいそう。


  ◆


 七月六日(水)

 最近分かった事。

 蓮司をからかうと楽しい!

 でも隙を見せると蓮司はすぐに私を守ろうとする。

 嬉しいけど、もう昔の私じゃないんだけどなぁ……。


 けれど、階段から落ちそうになった時に抱きかかえてくれたのは……嬉しかった。


 何度もキスしちゃったけど、変に思われてないよね……?


  ◆


 七月七日(木)

 たーなーばーたー!

 私と蓮司がイチャイチャしすぎてるせいで、私達が付き合ってるんじゃないかってクラスで噂になった。

 もちろん付き合ってないよって否定した。


 そんなんじゃないのにね。

 織姫と彦星は恋人だけど、一年に一回しか会えない。

 でも私と蓮司は『親友』だから、ずっと一緒にいられる。


 もちろん今日もキスをした。

 また明日、会えますようにって。


  ◆


 七月八日(金)

 夏風邪で休んでる友達のゆずるんから連絡が来た!

 来週から学校これるみたい!

 また皆でじぶけんするの、楽しみだなぁ。


 でも、ゆずるんと一緒にいると蓮司といる時間が減っちゃう。

 うむむ……悩む……。


  ◆


 七月九日(土)

 むっ、むむむむむ、胸っ! おっぱい、見られた!?

 うわ、あうわ、あわわががががががっ!

 あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!


 ……切り替えていこう。


 蓮司にくっついて、あったかくて、いっぱいいっぱい夢中になって、キスをした。

 もしあそこで止まらなければ、どうなっちゃってたんだろ……?

 でも、身体を見せるのは……ちょっと、恥ずかしい……あー! この前からかった事が跳ね返ってきてるー! 今お風呂なんて絶対一緒に入れないじゃーんっ!!


 わ、忘れよう……うん!

 お詫びに作ってくれた野菜抜き焼きそばとカレー、美味しかったなぁ。


  ◆


 七月十日(日)

 今日は家でだらだらしてた。

 蓮司に会いたい、でも気まずくて会いたくない。

 不思議。


 え、本当に明日どうしよう……?


  ◆


 七月十一日(月)

 今日はすっごい熱くて、あたたかかった。

 いや、まあ、うん……熱いのは私が、土曜日の事を忘れられなくて冬服で完全防備したせいなんだけど……そのせいで倒れちゃったんだけど……。


 ベッドの上から……お見舞いに来てくれた蓮司を見るのは久しぶりだった。

 昔から変わらない、本当に……いてほしい時にずっといてくれる。

 私が元気になるまで蓮司はお昼を食べていなくて……本当に優しい。


 だからもっと、キスがしたくなる。

 その優しさを、実感できるから。

 特別な『親友』に重ねて、私達の特別な行為になった。

 恋人じゃ出来ない、『親友』だから出来る、特別なキス。


 これはきっと、私と蓮司だけのものだよね?


 明日からはゆずるんも戻ってくるって連絡あったし、楽しみだ!

 とりあえず朝早いから準備してっと……へへ、蓮司はきっと驚くだろうなぁ……。


――――――――――――――――――――


第一章 幼馴染にキスをされた 完


次回


第二章 親友はキスをしたい 



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※作者コメント

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