第二章 親友はキスをしたい
第14話 「ずっと、いっしょだよ?」
夢を見ていた。
ずいぶん昔の、やけに鮮明な夢だった。
『れんくんれんくん! きょうもおはなしきかせて!』
色々な動物のぬいぐるみに囲まれたベッドに小さな頃の早霧が目をキラキラさせながら座っていた。今以上に身体が細くて、白い髪もまだ短い女の子だった。
『うんいいよ! さっちゃんきょうはね、みんなとえんそくにいったんだ!』
その横で椅子に座って話しているのは、小さい頃の俺だった。自分の事なのにまるで幽体離脱でもしているみたいにハッキリ見える。夢って言うのは中々に便利だ。
『えんそく!? どこに!?』
『こうえん! おっきなかわがあってね、とりがいっぱいですごかったよ!』
『いーなー! わたしも……ゲホッ! ゴホッ!?』
『さっちゃん!?』
早霧!?
手を伸ばしても俺の手はすり抜ける。当然だこれは夢なのだから。干渉は出来ない。ただ、過去の映像を観賞するだけ。夢って言うのは中々に残酷で不便だった。
『ま、まってて! すぐにさっちゃんのパパとママをよんで――』
『ゲホゲホッ……い、いかないで……』
『え、でも……!』
『おねがい……』
慌てて立ち上がった子供の時の俺の手を、咳き込みながら幼い早霧が掴む。その手と部屋の扉を、小さかった俺は交互に見たまま動けなくなった。
『もうひとりはやだよ……』
『さっちゃん……』
『わたしも、みんなといっしょにおそとにでたいよぉ……!』
ああ、覚えている。この時の涙を、忘れられる筈が無い。
『パパも、ママも、おいしゃさんも……からだがよわいからだめって……なんでだめなの……わかんない、わかんないよぉ……』
『ぼ、ぼくがいるから!!』
俺が、誓った日なのだから。
『……れんくん?』
『ぼくがずっといっしょにいるから! さっちゃんがよわいなら、ぼくがつよくなって! ずっといっしょにいるから!!』
『……ほんと?』
『うん!』
泣いていた早霧がだんだん笑顔になっていったんだ。
『ほんとにほんと?』
『ほんとだよ!』
『おそとにでて……こうえんにも……いってくれる?』
『うん! さっちゃんといっしょにあそびたいもん!』
それがとても、嬉しかった。
『ねえさっちゃん、これしってる?』
『……なあに?』
『ずっとなかいいともだちのこと……しんゆう! っていうんだって!!』
『しんゆう……』
意識がボヤけてきた。
『ねえ、れんくん……』
『なに、さっちゃん?』
ああ、クソ。
『ずっと、いっしょだよ?』
ここからが、良い所なのに――。
◆
「んんん……?」
ボヤけている頭が、だんだん、だんだん形になっていく。
朝は嫌いだ。ていうか単純に弱く、中々起きれない。だからアラームをいつも朝早くに……あれ、今何時だ?
「あ、起きた?」
長く白い髪が見えた。昔からずっと一緒にいる、綺麗な――。
「――さっちゃん?」
「…………え?」
早霧だ。俺の幼馴染で、学園一の美少女で。
「……もう、まだ寝ぼけてるの親友?」
そう、俺の親友……あれ、何で俺の部屋に……?
「……しょうがないなぁ」
ああ、まだ夢――。
「んっ」
「んんっ!?」
――じゃない、唇の柔らかな感触がした。
「さ、さささ早霧っ!?」
「蓮司おはよ。寝顔、可愛かったよ?」
ベッドで目覚めた俺の視線の先で、制服姿の早霧が笑っていた。
「な、何でここにいるっ!?」
「たまには良いじゃん。幼馴染なんだし、それに――」
「おい、おまっ――」
子供じゃない、元気になった今の早霧が。
「――んぅっ」
「――んむっ」
もう一度キスを、してきた。
「……親友、だもんね?」
「……あ、あぁ」
ああ、クソ。
元気になり過ぎだろ、この親友は……。
――――――――――――――――――――
※作者コメント
なんだかエピローグみたいですが、これより第二章開始です。
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