第17話 「一緒に行こっ?」

 さて。

 我らがじぶけんこと、自分らしさ研究会会長であるユズルが雄雄しくも弱弱しく復活を宣言して約三週間ぶりに騒がしさを取り戻した学校生活は夏休み直前と言うことも加算されてそれはもう勢いを増しそして――俺の心は、平和だった。

 

 何故なら、早霧とユズルは同じ女子同士の友達であり……し、親友だからだ。

 仲が良い二人は学校生活を共にしている事が多い。つまりその間は早霧の興味が逸れて俺は一人、胸の中で親友とは何かについて考える事が出来るのだ。

 思考の渦に飲み込まれる、精査の時間。ああ、平穏。

 そして親友と言う言葉を気軽に使えなくなってしまった、弊害。

 

 とにもかくにも一時的に平和な学園生活が訪れ、あっという間に放課後になった。

 放課後と言えば部活動。

 そう、我らが自分らしさ研究会も三週間ぶりに自分らしさについてのディスカッションをする場を設けられたのだが。


「……も、もう勉強やだああああああああああああああっっ!!」


 復活していきなり、解散の危機だった。

 さてもさてだ。

 何故自分らしさを追及する代表であるユズルがいきなり普段の会長たる仮面を崩して泣き叫んでいるかと言うと、それは最初にも話題に出した三週間前に遡る。


 三週間前。期末テスト期間に突入、全ての部活動が活動を禁止される。

 二週間前。期末テスト本番。当然その間も部活禁止。

 一週間前。テスト疲れでユズルが夏風邪をひいて学校を休む。

 そして今。復活したユズルだったが返されたテストのほとんどが赤点で補習確定。


 ……と、まあこんな感じだった。


「ゆずるん笑顔だよ、笑顔。楽しく勉強すればテストなんて怖くないよ」


 そしてこちらに見えるのは早霧の貴重な勉強を教える姿。いつもは俺に聞いてくる事が多いので新鮮だ。


「す、すまないゆずるちゃん……! 俺に、俺にもっと力があれば……!!」

「学力な」


 脳みそまで筋肉。見事な脳筋っぷりを発揮している大男長谷川は自分の無力を嘆いていた。


「赤堀! お前に頼みがある! 俺に力を……勉強を教えてくれ!」

「それは構わんが、今はユズルの補習テスト対策が先だろう?」

「馬鹿野郎! ゆずるちゃんの危機は俺の危機だ! 代わりに俺がテストを受けるんだよ!!」

「駄目に決まってるだろ。だが勉学に励むのは良い事だ。教えてやろう」

「流石だぜ、世話焼き居眠り馬鹿真面目!」

「教えるのやめるぞこの野郎」


 ……こんな感じで、急遽勉強会が始まって。俺が長谷川を、早霧がユズルをそれぞれ担当して一時間が過ぎた。

 そして最初の叫びの通り、一番の重要人物が一番最初に音を上げたんだ。


「……勉強と自分らしさに何の共通点があるっていうんだっ!」

「自分の学力がそのまま結果につながるところだろう?」

「レンジ! 正論は求めてないよっ!!」


 小さな暴君は議論の場すら与えてくれなかった。


「うぅ……勉強しに登校した訳じゃあないのにぃ……っ!」

「いや勉強の為だろ」

「まあまあ蓮司、ゆずるんも久しぶりの学校だし……ね?」


 ウインク。

 狙ったかどうかは分からないが、間違いなく俺には刺さった。ドキッとした。


「さ、さぎりーんっ!」

「おーよしよし。ゆずるんはやれば出来る子だもんね、ちょっと休憩しよっか?」

「するっ! さぎりんだいすきっ!」

「……可愛いぜ、ゆずるちゃん……」


 これが自分らしさ研究会の日常である。

 言葉通り自分らしさとは何かを研究する会ではあるが、言い換えれば自分らしくいられる会がこの場所である。


 見た目と性格のギャップ、理想と現実、他者の評価やレッテル。


 そんなしがらみから解き放たれる為の会なのだ。

 その代表たる会長がこの中で一番自分らしさに悩んでいるので、イケイケな時と比べると振れ幅が大きい。

 ちなみに次点で長谷川、早霧、俺と続く。


「じゃあゆずるんには頑張ったご褒美に甘い甘いジュースを買ってしんぜよー!」

「わーいっ!」

「か、可愛さで死ぬ……っ!」


 ああ、懐かしい日常。

 そうそう、これが青春だ。

 学園一の美少女である幼馴染に悩まされる青春なんてどこにも――。


「じゃあ親友。一緒に行こっ?」


 ――ここに、あった。

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