第10話 「み、見た……?」
幼馴染と同じベッドの上で抱き合っている。
言葉だけ切り取ってみるとそういう事にしか見えないかもしれない。
「……んっ」
でも現実もそういう事かもしれない。
照れた顔を見せないように、早霧はぎゅっと瞳を閉じてキスをする。
柔らかな唇だ。それは今、俺に触れている彼女のどの部分よりも柔らかかった。
「……親友」
短いキスの後、早霧は唇を離して俺を見つめる。声は熱を帯び、瞳は潤んでいて。彼女の全てが、俺の思考を狂わせている。
「……も、もう。あたたまったか?」
親友が、可愛すぎた。けれど口から出た言葉は気の利いた言葉じゃ無く、照れと言う最後の理性が生み出した逃げだった。
「……まだ寒い、かも」
早霧は視線を逸らしながらそう言って、俺の背中に回された手の力が強まった。
綺麗な顔がまた近づいて。
「んぅ」
そのまま、二回目のキスをされる。
映画やドラマのワンシーンにあるような綺麗なキスは出来ない。薄目を開けて彼女の美貌を見てしまう。
整った眉、長いまつ毛、閉じた瞳。
近すぎたが故に気づかなかったその魅力は、ゼロ距離になってようやく気がついたんだ。
「……ぁ」
さっきよりも長いキスが終わり、早霧は小さな息を吐いた。唇と唇が触れ合っただけなのに、肩を使って息をするぐらいに疲れている。
色白な肌。色づく様がハッキリと分かり、耳の先まで朱色に染まる。それがとても色っぽくて、艶めかしかった。
「……寒い、よね?」
すぐさま、三回目。
乱れる呼吸を整える暇も無かった。
「……親友」
四回目。
漏れた吐息が唇に触れながら。
「……親友」
五回目。
首に手を回されて。
「……親友」
六回目。
身体を徐々に押し付けられ。
「……親友」
七回目。
ベッドに、押し倒された。
「……親友っ」
八回。
無我夢中に。
「……親友っ」
九回。
求めるような。
「……親友っ!」
十。
親友との、甘すぎるキスが終わる。
「……はぁ……ふぁ……」
「……はぁ……はぁ……」
餌を求める小鳥のように、唇をついばまれた。その一回一回がまるで劇薬並み作用して脳を侵食していく。
キスをされる度に満たされていく。
それなのにキスをしていない今この一瞬が寒く感じるんだ。
早霧の熱にあてられてしまったのかもしれない。
「あ、あついね……」
「……え?」
「……あっ」
その言葉に目を見開いたのは俺だけではなく、早霧もだった。
「…………」
「…………」
無理やり戻された現実に嫌でも思考が追いついていくのを感じた。
湧き上がってくるのは先ほどまでの情事にも似たキスの嵐とそれを認識した恥ずかしさ、そして終わってしまうと思ってしまった自分自身への困惑の波。
今の俺は、どんな顔をしているのだろう?
それが頭を過ぎった瞬間、早霧の顔を見ていられなくなり俺は視線を外して――。
「さ、早霧っ!?」
――すぐに、視線を逸らした。
「……む、胸っ!?」
俺は今、早霧に押し倒されている。
「え、胸……?」
早霧はオーバーサイズで首元がヨレヨレになった古着を着ていた。
「…………」
密着する身体で見つめ合うには、少し上体を起こす必要がある。
「ひっ――」
そして俺の目線の先は丁度、胸元にあって。
「ひあああああああああああうっ!?」
つまり、見えてしまったのだ。
服の中に隠れた、いや隠れてすら無かった……その、大きくて、綺麗な、胸を。
「み、みみみみみみみみっ!」
跳びはねて俺から距離を取り、ベッドにペタンと座った早霧は自分の身体を胸の前で抱きしめてから。
「み、見た……?」
爆発しそうなぐらい真っ赤な顔と泣きそうな瞳で、俺を見つめた。
俺は無言で頷く事しか出来なくて。
「……わ、忘れて……ください……」
「……は、はい」
何故か共に、敬語になった。
その後。
早霧はずっと大人しくなり露骨に俺から距離を取る。
俺はお詫びに肉だけが入った焼きそばとカレーを作ったが食事中はほとんど会話は無かった。けど早霧は全部綺麗に食べてくれたどころか、おかわりまで。
よく食べるから育ちが良いんだなと、いつものように言えたらどれだけ楽だっただろうか?
そして、もちろん。
服の中に見えた膨らみと重力の偉大さを。俺は生涯、絶対に忘れないだろう。
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