第21話『いざ、学園へ⑤』

正門の目の前がメインの校舎、生徒達が皆そちらに向かっていた。

制服も着ていないコウはその場に浮いていた。


(チラチラと見られてるな、早めに学園長室に行くか)


学園長室はこの校舎の最上階、最上階全てが学園長兼実験室となっていた。

実験室が4/5を締めている為、生徒の出入りも多いらしい。

校舎に入るとエントランス、そこから左右に各教室、正面に食堂となっていた。


「階段は・・・」


コウが階段を探し周りを見ていると、エントランスの一画が騒がしい事に気づいた。


「貴様!俺がアルバート・レオネスである事をわかっての所業か!」

「す、すみません!ちょっとフラついて」


どうやらが難癖をつけている。

制服の汚れから怯えた男子生徒がアルバートの制服に飲み物をかけてしまった様だ。


(何てベタな・・・)


貴族がこの世界でどれだけ偉いのか、周りが見て見ぬ振りをしているのを見ると良くわかる。

先日のシルバの話しを聞いてある程度それは理解していた。


「どうしてくれる!」


アルバートは男子生徒の胸倉を掴みあげ、空いた左手に魔力を、溜める。

魔力は炎に変換され、火の球を形成していく。

だが、それが放たれる瞬間、アルバートはコウに腕を掴まれ後方へ投げ飛ばされた。


「いたっ!?」


尻餅をついたアルバートは自身を投げた相手を睨みつける。


「貴様!何者だ!?」


睨まれたコウは見下ろしたまま呆れた顔をしていた。

ただの難癖程度なら様子を見て止めるだけにしようかと思っていたが、明らかにやり過ぎである。


「やり過ぎだよ、坊ちゃん」

「そんな事は聞いていない!俺が誰かと聞いているんだ!」


アルバートはコウの態度に激昂し胸倉を掴む。

だが、先程と違い相手のバランスを崩す事が出来ない。


(何だ、こいつは!?・・・全く動かせる気がしない)


その事実が更にアルバートの怒りを増長させた。

アルバートはコウを突き放すと制服の内ポケットから手袋を出して投げつける。

本来は貴族の間で決闘の申し込みなっている白い手袋を相手に投げつける行為、貴族のプライドの高さもあり避ける等もっての外だった。

だが、コウにそんな事は関係ない。

コウが避けた手袋は虚しく地面に落ちた。


「き、貴様・・・どこまで俺を馬鹿にして・・・」


ワナワナと身体を震わせコウを睨み続ける。


「えっと・・・なんかごめん」


コウも反射的に避けてしまったが、これが決闘の申し込みだと言うのは何かで見た事があった。

避けたから何だとは思うが顔を真っ赤にして怒る子供に流石に申し訳なくなってきていた。

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