第15話『八神虹の秘密④』

八神やがみ じん、享年93歳。

八神流やがみりゅう第10代目当主にして虹の祖父である。

八神流は、単体から複数、果ては大多数の乱戦時において戦う為に生み出された流派であり、武術や剣術だけに収まらず、槍術・弓術などありとあらゆる武器を体系に置いている。

それゆえ、免許皆伝までに永い時間を有する一子相伝の流派だった。

刃も例に漏れず、幼い頃より父に八神流を叩き込まれる日々を過ごしていた。

刃は父をして天才と呼ばれ、成人を迎える前に八神流を継ぐと、単身海外へと渡る。

様々な紛争地域へおもむき八神流をふるい、数々の紛争を終戦へと導いた。

味方からは『武神』として讃えられ、敵からは『鬼神』と恐れられ、各地を転々とする日々・・・。

転機が訪れたのはそんな日々を送って10数年が経った時、紛争地にて日本人の女性と出会った。

その人物こそ、虹の祖母である。

当時、狙われる立場にあった刃は、戦時の混乱に合わせて2人姿を消した。

その後、終戦となった日本へと帰国を果たした2人は子を授かる。

しかし、刃は八神流を一切教える事は無かった。

何を思っての事かは分からないが、刃は自らが八神流を終わらせる事にしたのだ・・・。


(俺が爺ちゃんから教わったのは刀や槍の持ち方と構え方だけ・・・)


ゴーンが繰り出す攻撃を避け続けるコウ、彼が刃に教えを受け始めたのは今と同じく10歳の時。

当時、虹は道場で1人稽古をする刃を毎日の様に見ていた。

刃は愛想の無いジジィとして近所での交流は無く、1日の大半を道場で過ごしていた。


「・・・毎日毎日飽きもせず何が楽しい?」

「え?うーんと・・・爺ちゃんカッコいいから!」

「・・・」


虹の満面の笑みを受け、刃は笑いもせず素振りに戻る。

虹も気にせずその姿を眺める。

2人の道場での時間はそれが全てだった。


「お前も振ってみるか?」


刃は虹に脇差わきざしサイズの木刀を手渡した。

その日より、虹は刃に刀の握り方や構えなどの基礎知識を学んだ。

最初は刃の隣でひたすら素振りをする日々。

高校に入る頃には、刃との仕合をする事が増えていった。

だが、相手は武神とまで言われた達人。

齢70近いとは言えその冴えは衰える事は無く、虹は一方的に打ち込まれるだけだった。

刃の剣を見切り、受け流す事が出来る様になった頃、虹は自身の余命を宣告された・・・。


「クソっ!!何で当たらねぇ!何なんだテメぇは!?」


もはや余裕の無くなったゴーンは無造作にバルディッシュを振るう。

武器の重さも相まって既に体力はかなり削られていた。


「おっと・・・」


順調に攻撃を避けていたコウだったが、突如砂地に足を滑らせた。

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