第11話『西の国と冒険者ギルド⑦』

「へめぇ!ふぁえるな!!(てめぇ!ふざけるな!!)」


そんな和やかな雰囲気になりかけた場を見出すのは先程コウに足払いを受け顔面ダイブした男。

勢いよく立ち上がりはしたが、歯が欠け鼻からは血が蛇口を捻った様に垂れ流れ、何を言っているのかわからない。


「このハキィ!ぶっほろす!(このガキィ!ぶっ殺す!)」


まさにコウに襲い掛かろうと腕を伸ばした時、その間に1人の男が割って入る。

60代後半だろうか、グレーの髪をオールバックにし、冒険者とは対照的な黒いスーツに身を包んだその男が間に入った瞬間、その場の誰もが固まった。


「何かありましたか?ゴーン君、随分と面白い顔になっていますね?」


男性は、ゴーンと呼ばれた元傭兵の冒険者を見ると、整えられた口髭を弄りながらニコニコと話し始めた。

周りとの温度差にコウが困惑していると、そばにいたバランが声を上げた。


「ギルドマスター!」

「ギルドマスター?じゃぁ、この人がここの管理者?」

「そうです、少年君。私がこの南の冒険者ギルドのギルドマスター、シルバ・ガンライムです。」


シルバはコウへ一礼する。

その姿は気品溢れ、まさにイケおじの名がピッタリだ。


「コウ・ヤガミです。よろしくお願います!」


コウも釣られて頭を下げる。


「ヤガミ?・・・礼儀正しい少年君だ。コウ君でしたね、この現状を私に教えてもらえますか?」

「はい・・・」


コウが起きた事を話す。

シルバは変わらぬ笑顔でそれを聞いていたが、周りは若干青ざめていた。

先程まで威勢が良かったゴーンですから、黙ったまま下を向いている。

それ程までの何かがシルバにはあるのだろう。


「なるほど、わかりました。君は随分落ち着いていますね、まだ10歳でしたか?姓があると言う事は、貴族のご子息ですか?」

「それが、記憶喪失で・・・何も覚えてなくて・・・」


苦笑いを浮かべるコウを見ていたシルバの瞳が、かすかに金色に輝いた様に見えた。


「どうしました?」

「いぇ、何も・・・」


シルバの笑顔に圧倒され、肝心な事を聞けなかった。


「さて、コウ君。君は冒険者登録をしにこちらに来たのですよね?冒険者登録には、試験を受けていただく事になっています。どうです?ゴーン君に相手をしてもらいませんか?」


シルバのとんでもない提案にその場の全員が目を見開く。

普通に考えれば、記憶喪失の10歳の子供に元傭兵であり現役の冒険者を相手に選ぶ事などあり得ない。


「待って下さい、ギルドマスター!いくらなんでも危険過ぎます!」

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