第10話『西の国と冒険者ギルド⑥』
「何だ、あいつ?この辺りでは見ない顔だな」
騒ぎを聞いてカウンター奥からリンが慌てた様子で飛び出してきた。
「あの人、また!・・・」
「リン、あいつは?」
「あ、バランさん・・・あの人、バランさん達が依頼で街を出た後に冒険者登録をした人なんです。元傭兵って事で、ギルドマスターが特別にDランクからのスタートで良いって言ってくれたんですが・・・」
「なるほどな、自分が特別だって
「そうなんです。丁度、高ランクの方々も最近の異変調査でギルドから離れてしまっていて・・・」
「タイミングが悪かったか。仕方ねぇ、ちょっとお仕置きが必要かね」
そう言いながら指の骨をパキパキと鳴らすバラン。
だが、事態は思わぬ方向へ向かっていく。
「この女、テメェらギルドの人間は冒険者がいなきゃ何も出来ねぇだろうが!黙って言われた事やっとけ!」
バランが彼らの元へ行くより早く、彼の怒りは頂点に達してしまったようだ。
怒りのままに振りかぶった拳に周囲は焦るが、その拳は彼が倒れる事で女性に届く事はなかった。
「あぐぉった!?」
情けない声を出して倒れた彼は、受け身も取れずに顔から床に倒れ込み悶絶した。
倒れた彼の苦痛に悶える声が響く中、ギルドにいる者達の視線は1人の少年に集中していた。
「コ、コウ!?」
そこには、殴りかかった男を見下ろすコウがいた。
彼はバラン達が話しをしている最中、1人言い争いをを続ける2人の元へと歩いた。
男を説得するつもりでいたが、男が殴りかかった為、
(やってしまったぁ・・・ヤバいと思って思わず足引っ掛けたけど、酔ってたからかあんな盛大にコケるとは思わなかった・・・)
周りには、相手を見下ろすクールな少年に映っているが、内心コウの心は穏やかではなかった・・・ぶっちゃけかなり焦っていた。
「君、ありがとう・・・」
言い争っていた女性は、突如自身のピンチに現れた少年にトキメキを感じ視線を合わせられなかった。
(あぁ・・・そりゃいきなり現れて人をぶっ倒す様な奴、怖いですよねぇ)
自身に向けられた好意にも気づかず自分がヤバい奴だと思ったコウは、心の中で涙を流す。
決して恋愛経験が無いわけでも、鈍感なわけでもないが、今の置かれた立場に焦るあまり周りが見えていないのである。
「コウ!」
そんな絶賛頭の中がアレコレ騒がしいコウの思考をバランが引き戻す。
「良くやった!が、場合によってはお前もタダではすまなかったんだぞ?冒険者は自己責任の世界だ、お前に何かあっても、誰かが助けてくれるとは限らない」
「すみません、何も考えなしで動いてしまって・・・」
「良いじゃねぇか、バラン。こいつが動かなきゃミラは殴られてたんだ。漢を見せたじゃねぇか」
ガイはバランの肩に手を置くと、コウへ向かって親指を立てた。
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