第9話『西の国と冒険者ギルド⑤』

バラン達は真っ直ぐに奥へと進む。

奥には広いカウンターがあり、そこには複数の女性がせわしなく対応していた。


「依頼の報告がしたい」

「バランさん!ガイさん!スライさん!無事に帰ってこれたんですね!」


バラン達がカウンターへ着くと、1人の女性が駆け寄ってきた。

茶髪のポニーテールがゆらゆらと揺れる。


「おぅ!時間はかかっちまったが、みんな無事だぜ、リン」

「遅くなったのはこいつが向こうの美味いもん食いてぅとか言って2.3日滞在したからだけどな」

「ガイだって乗り気だっただろ!なぁ、スライ?」


話しを振られたスライは苦笑いしながら指で文字を描く。

空中に魔力の残滓ざんしが文字を作り上げる。


ーバランもガイも楽しそうだったよ?ー


(スライさん、喋れないのか?だからあんなに静かだったのか)


コウの考え通り、スライは喋る事が出来ない。

魔力を指へ集中させ、空中に魔力の文字を描く事で会話をしている。


「ふふ、相変わらず仲が良いですね。では、改めて今回の討伐依頼の素材を頂けますか?」

「あぁ、これがギガントライノの角だ」


バランが背負った袋からサイの角の様な物を取り出した。

地球で見たサイより鋭利えいりな刃の様な角だ。

それを見るだけでもギガントライノの巨大さと強さがわかる。

実際ギガントライノは、その巨体と力強い走りで突進し、自慢の角で獲物を突き刺し時には切り裂く魔獣だ。


「確かに。では、鑑定を行いますのでしばらくお待ち下さい」


リンはギガントライノの角を受け取ると、カウンター奥へと消えていく。


「バランさん達は依頼の途中だったんですね」

「あぁ、依頼が終わった帰りだったんだが、とんだ帰り道になっちまったな、はははっ!」

「笑い事かよ、まぁ無事に帰ってきたんだし良いけどな。待ってる間飯でも食うか?」

「そうだな、コウも腹減ってるだろう?」

「でも、俺、お金が・・・」

「子供がそんな事気にすんな!行くぞ」


バランに頭を力任せに撫でられ、悪い気がしないコウ。

最初は否応いやおうなしにバラン達を頼ってしまったが、短い間でもわかる彼らの優しさに救われた。

そんな事を思っていると、彼らが向かう予定のバーエリアから怒号と共に椅子が蹴り飛ばされた。


「いつまで待たせるつもりだ!酒がきてねぇって言ってんだろうが!」

「順番にお出ししてますから、待っていて下さい!」


見れば、テーブル席で椅子を蹴り飛ばしたであろう男が、定員の女性へと詰め寄っていた。

女性も気圧される事なく立ち向かうが、冒険者であろう男に対してあまりにも頼りない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る