きみと息をしたくなる
コオロギ
きみと息をしたくなる
市立図書館の二階にドンドンドンと列べられた本棚の隙間を、きみを探してのらりくらりしている。一階と違って歴史学、生物学、心理学と専門書が多いけど、意外にも絵本なんかが挟まっているんだからたまらない。
背表紙のみで選ぶなんて後ろ姿に声をかけるがごとく所業だと思うのに、こんなにリラックスしていられるのは、こちらを振り返ってくれることを確信しているから、もちろんそっと棚に戻したって構わない。罪悪感だって湧きはしない。
そんな罰当たりと言ってもいいようなやり方で、存外良いと思える出会いをして、頭のてっぺんから爪先まで堪能しああ好きだなと思ったところで、何十年も前に作者が亡くなっているのを知って愕然としたりする、もし同時代を生きていたとして言葉を交わせるわけでもないのに、もうこの世のどこにもいないことが寂しい。もう二度と続きを見られないことが悲しい。
そんな憂いをすぐに放り出し次から次へとまた手を伸ばす。地上で窒息しそうなぼくは、物語に頭を突っ込まないことには生きていられない。
蛍の光が点されて、今日はもうおしまい。
顔を上げた途端、ぱっと消えてしまう幻でも、やっぱりぼくに離れるなんて選択肢はない。
明日もまた、きみと息をしたくなる。
きみと息をしたくなる コオロギ @softinsect
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