第27話
ソングバードさんを救助し、移動しようと抱きかかえた瞬間俺は頭部に大きな衝撃を受け、ミカミとの通信も途絶えてしまった。
一瞬の混乱後、「またかよ!」という感想が頭をよぎるが、それどころではない。
強い違和感のある衝撃だったのだ。
そう、強い衝撃を受けた時にシールドが崩壊するパリンという音がしなかったのだ。
シールドが機能してない?!
いやシールド自体は展開している……はず。
何故なら上級防護服は触覚センサーによって防護服の表層に受けた感覚が肉体に伝わるのだが、その感覚がシールドがある時のソレだからだ。
しかも衝撃で直視装置が壊れたらしく何も見えなくなってしまった。
何が起きたのか分からない状況で何も見えなくなったのはかなりの痛手だ。
直後さらなる衝撃に襲われる。
全身に衝撃が走ると俺は吹き飛ばされた。
床に叩きつけられ何度か床にバウンドし、何かにぶつかり停止した。
今度はしっかりとシールドが衝撃を受けたゴン!という音がしていた。
「一体なんだ?!」
声を発しても反応が返ってこない。
「クソッ!通信機もダメになったか!」
とりあえず次に何が起きても良いように起き上がり態勢を整える。
ヘルメット表層の感覚に違和感がある。
シールドがあればそれとわかるのだがシールドが無いのとも違う感覚。
!
その直後俺は驚愕する。
俺の左額の辺りに風の当たる感覚がある。
ヘルメットが破損している?!
直視装置が壊れた原因はコレか?!
冷汗が俺の背を濡らす。
俺専用に調整された専用防護服のさらに一番強固なヘルメットを破損させる衝撃だ。
一体何が起きている?
幸い坑道内は気圧もある。
破損したのはバイザーの左側と左額辺りのようだ。
ヘルメットの呼吸機器辺りは問題ない。
このため、すぐさま人体に影響あるようなものではないが頭部を守るモノが無いという心細さが俺を焦らせる。
プラプラとバイザー部分が坑道内の風に揺れるが、邪魔なのでそれをはぎ取る。
ついでに壊れた直視装置と目を覆っていた目隠しも取ってしまう。
壊れてしまった以上邪魔なだけだ。
そして目を開ける。
!
「見える!」
視力が回復している!
いつの間に?!
しかし、今はそれを考えている場合ではない。
すぐに辺りを見回す。
直視装置と肉眼とで見え方が若干異なるため、その違いで多少クラクラしたがグッと堪えて状況の確認をする。
俺の前10m先辺りにソングバードさんが居た。
闇雲に手足を振り回し、転び、それでも起き上がれないで懸命に立ち上がろうとする……そんな不思議な動きをひたすらにしていた。
だが、ソングバードさんの実体の性能から振り回した手足はソングバードさんの周りを破壊しまくっている。
……これに俺はやられたのか!
よくよく見ればソングバードさんの右手にはシールドカッターが握られている。
シールドカッターは握り手部分は完全につぶれており、破壊された衝撃でカッター部分が一部発動しているそんな状態だった。
完全起動状態だったら俺は死んでたな。
漠然とそういう考えが浮かんできたが、こうして暴れている強力な実体を持つAIをどう抑えれば良いのか実際の所全く分からない。
ソングバードさんの動きが緩慢になり、ゆっくりと俺の方を向く。
目が合う。
ソングバードさんの目は明らかに意思のあるAIの目だ。
混乱している目ではない。
ではあの不可解な動きは何だ?
ソングバードさんはどうなってしまっている?
「あ…ら?こ……n…にち……わ?」
たどたどしく声を出してくるも以前会ったことのあるソングバードさんの印象とは完全に違う。
声は同じだと思うのだが、そう、言ってみれば”中身が違う”のだ。
「お前は誰だ?」
「あ…ら、し…つ……れ、いね?あな…たがた、の……ほ…うが、まえ、ぶ…れも……なく、おしか……けてき、た…のに?」
押しかけてきた?
この宇宙に転移?してきたことか?
「どういうことだ?俺たちは気づいたらこの空間にいただけだ。」
「そ…う?あなた…が、た……も、まき…こまれ、て、き……たの、ね。」
「巻き込まれた?あなた方も?」
「あ…あ、じこ…しょ、うかい、がまだ…だった…わね。わた…くし、は、……そ…う、ね……やみひめ。」
「俺は伶旺、れ、おだ。」
「て…き、た…い、する…つも、りはないわ。なぐって、し…まったの、は…ごめんな…さい。」
とりあえず”やみひめ”(闇姫か?)と名乗る女性?は敵対する意思はないらしい。
そこはひとまず安心材料だ。
「いや、構わない。詳しく話を聞きたいのだが、その前に、その体の持ち主に体を返してもらえないか?」
「え?こ…の、から、だ、ただの、にん…ぎょう、では…ない、の?」
「AIで分かるかな?人工知能の体で、今は意識が無いだけなんだ。」
「それ…は、しつれい、した…わ。でも、いま…は、このまま…で、ゆるして…ほし、いわね。か、わりの…よりしろ…がない、の、よね。」
どうやら彼女には依代がないとダメらしい。
他にもなぜここに居るのか等々気になる事は山ほどあるが今は置いておく。
「分かった。とりあえず今はこの資源衛星、小惑星がそこのあなたの住む星に落下しそうでね。それを阻止するために協力してほしいんだが。」
「え?お、ちる?た…い、へんなことじゃ、ない?!」
「そう、大変な事なんだ。だから大人しくしてくれているとありがたい。」
分かったと彼女は答えたが、その不思議な動きは相変わらずだ。
だが、カンで探りを入れたことが正解だったようで、ひとまず彼女はウィリデの住人という事で良いらしい。
しかし不規則な挙動のため危なくて近寄れないことに違いはない。
「動きを止めてくれないと危なくて近寄れないんだ。頼むから動かずじっとしていてくれ!」
「ご、めんな、さい。うご、かないよう、しているのだけれど、かって…に、うごい、てしまうのよ。」
どうやら止まっていようとしていても時折勢いよく動いてしまうらしい。
怖いのはシールドカッター位だが、予想外の挙動というのは対処が難しい。
ソングバードさんの実体が力持ちとはいえ俺の上級防護服の防護性能はとても高い。
ソードーカッター以外のダメージは無効化できるはずではあるのだが……。
近づくとこの所の腕が凄い勢いで振り下ろされる。
それを左腕でいなし、そのまま床へと押さえつけようとすると今度は彼女の右足がしたから蹴り上げられる。
咄嗟に彼女から離れると先ほどいなした彼女の腕と今蹴り上げられた足が凄まじい衝撃音を上げ衝突する。
当然ソングバードさんの実体のシールドはパリン!と崩壊しその衝撃でぶつかった手足が逆方向へと弾ける。
「わざとやってるんじゃないよな?本当に止まってるつもりなんだよな?」
軽く冗談っぽく指摘する。
「わざと、じゃ、ない、わよ!しんがい、だわ!」
彼女の方も俺に合わせて、いや、むしろ楽しむ様に返してくる。
このやり取りは意図的にしている。
深刻な空気にはなるべくしないように心がける。
彼女は貴重な現地人だ。
いずれ本格的に接触をしなければならないが彼女を通じて現地の情報も得られるし、現地との接触もスムーズに行う事も期待できる。
実際の挙動の拘束以上に和やかな雰囲気で進めなければ。
とはいえ、やはり問題はシールドカッターだ。
これのお蔭で踏み込み切れない。
下手をすれば即死の危険すらあるのだ。
闇姫の方はその脅威性を認識してはいないようだが、むしろ今後のためにもその脅威性は認識させてはいけない。
そしてシールドカッターも破損状態のためそのカッター部分が大きくなったり小さくなったりしている。
何度かトライをしてみるが、うまくいかない。
人間の動きを外れた予想外の挙動というものはなんと対処のしようが難しい事か。
こうなれば奥の手を使うしかないか。
実の所あまり使いたくはなかったんだが。
少なくともこうして防護服を着ている間はね。
それから気になる事もある。
俺の見た目(ヘルメットの破損部分だけだが)を見た闇姫が特に違和感をもっていいない様子をみるに、彼女たちが俺たちと違う姿をしている可能性もある。
俺たちが別の次元?宇宙?から来たという事でスルーしているだけかもしれないのだが、俺の姿が変わる事で警戒されるかもしれないという懸念もあるのだ。
とはいえ、”
俺は静かに精神を研ぎ澄ませ天と地とを俺の体を通じて一本の線となるようイメージする。
天と地からの”おかげ”をその体と精神に宿らせる。
俺の体が太く大きくなってゆき、体からはこげ茶色の体毛が生えてきているのが分かる。
顔の形も多少変化し、猿人のような形から本来の人の形になる。
防護服も俺の身体の変化に合わせ自動的に調整される。
闇姫は一瞬目を見開き、驚きからかその身体をより一層滅茶苦茶に動かしている。
それでも”
そしていざ闇姫、というかソングバードさん(闇姫)を拘束するために動き出そうとした時に悲鳴のような言葉にできないような声が響く。
「!!!」
声のした方向を見ると、防護服の色と形から恐らく留依と思われる人物が俺の右手方向の坑道からこちらを見ていることに気づく。
瞬間、俺が止める間もなく留依は物凄い勢いでソングバードさんに体当たりをかける。
上級防護服による全力の体当たりに両者のシールドが崩壊し辺りにシールドの粒子が飛び散る。
そしてソングバードさん(闇姫)は凄い勢いで壁まで吹き飛ばされた。
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