第25話


資源衛星の落下を阻止すべく俺が閃いたのは資源衛星の補助推進器を暴走させることで回転を早急に止め、資源衛星の推進力を可能な限り長時間一定方向へかける事でウィリデへの落下を阻止する事だった。


だが、司令部へと問い合わせた答えは中々戻ってこなかった。

それも当然と言えば当然かもしれない。

推進器の暴走など普通は考えない。

何故なら推進器の仕組み上暴走はあり得ないし、爆発もあり得ない。

つまり故意に、あるいはその意図をもって運用しなければ暴走などという事は無いのだ。


だが、同様に推進器の仕組み上暴走させた力場の指向方向の制御も可能の……はずなのだ。

これは3番艦と資源衛星を繋ぐ支柱を切断する際、湾曲した支柱に溜まった支柱が戻ろうとする力が一気に解放され支柱の基礎部分もろとも小型船が吹き飛ばされたのと同じようなことが起きる。


これこそが狙いだ。

資源衛星の256カ所に設置されている補助推進器の出力はあくまで”補助”で大きな出力は出ない。

大きな推力が必要な時には時間をかけ必要な推力を得る仕組みになっている。

このため、もし今の資源衛星の回転を止めようとしてもかなりの時間がかかるだろう。

しかし、推進器の暴走をさせれば一気に大きな推進力を得ることができるが、暴走させた推進器は恐らく破損し使用できなくなるだろう。


故に一発勝負になる。

指向方向と推進力の調整を失敗すれば取り返しはつかない。


司令部からの返答が遅れているのも恐らくこの辺りの事が問題になっているのだろう。

もしかしたら指向方向と推進力の調整にかかる計算能力の確保の方が問題なのかもしれないが。


司令部からの返答が中々返ってこないので俺と通津は留依たちとのコンタクトの方法を探っていた。


「……どうやら、全部の通信チャンネルが閉じられてますぜ。」


資源衛星内の通信状態をチェックしてた通津が呆れたように伝えてくる。

そして当然のことながら俺からの防護服による直接の通信も届かない。

もっとも、直接通信は俺たちの居るDS20待機所から留依たちの居るであろう中央事務室まではかなりの距離がるから通じるとは思えないのだが。

さらに通津は続ける。


「待避所で分かる情報は少ねーんですが、振動情報の中の傾き数値がさっきまで同じだったのが、少しずつずれてきてるんですよ。」

「どういうことだ?」

「もしかしたらなんですがねぇ、伶旺様の部下たちはどうやら資源衛星の回転を加速させようとしてるんじゃないかと思うんですよ。」

「回転の加速?!一体どういうつもりなんだ?」

「うーん……俺にもよく分かんねぇんですがねぇ、高速回転させることで軌道がそれるとか?」

「実際に軌道が変わるかどうかは分からないが、それくらいしかできる事も無いのかもしれないな。」


しかし、回転の加速をするとなると非常に困ることになる。

俺たちは回転を止めようとしているのだが、留依たちは逆に加速させようとしている。

たとえ司令部から推進器の暴走の許可が出たとしてもまず留依たちを説得をしなければならない。


通信が繋がらないのなら直接行くしかないな。


「よし、通信が繋がらないのなら行こうじゃないか。最終的には耐衝撃シールドを小型船に乗せて離脱しなきゃいけなんだしな。司令部からの返答もないから出発の準備だけでも十分にしておこう。」

「おし!ならもうほとんど終わってるぜ!荷物載せただけだしな!がははっ!」

「積載に余裕があるのなら使えそうなものも適当に載せておいてくれ。何か役に立つことがあるかもしれない。」

「了解だ!適当に……そうだな、使う事はないだろうが個人用の耐衝撃シールドも入れとくぜ!」


司令部からの返答を待ちつつ耐衝撃シールドを乗せた船の準備をすることにした。

さすがにここまで来た時の連絡艇では小さすぎるので、別のもう少し積載量のある船に耐衝撃シールドは載せてあった。

船が大きくなると資源衛星の内部で通れる場所が少なくなるのでなるべく小型の方が良いらしいのだが仕方がない。


準備もようやく終わろうという頃に司令部からの返答が来た。

ミカミがその返答を伝えてくれる。


「伶旺様、司令部からの許可が下りました。」

「おお!本当か!」

「ハイ、指令室のサポート付きです。サポートが無ければ成功させられないでしょう。」

「と、いうと?」

「資源衛星の回転と各補助推進器の出力を調整しつつ、正しい方向へ暴走させた推力を送らなければなりませんのでAIの計算能力と判断力が無ければ無理です。」

「なるほど。よく1番艦の方に手の空いているAIが居たな。」

「これは返答が遅れた原因でもあるのですが、2番艦のAIも”目覚め”たのです。」

「!」

「この状況下で2番艦のAIも活動できるとなれば資源衛星の落下阻止にも十分にAIを割り振ることが可能です。」

「これでより資源衛星の落下阻止の可能性が上がったな!」

「ワタクシは資源衛星関連事項に関しましては専門外ですのでサポートAIと伶旺様達との橋渡しを続けることになります。」

「了解した。よろしく頼む。」

「かしこまりました。」


これでかなりスムーズに作業を進めることができるようになった。

こうなれば一刻も早く俺の隊「フォッシオ」と合流しなければ。


早速俺たちはフォッシオメンバーの居るであろう中央事務室へ向かう事にした。

相変わらず通津は公式の地図にはないルートをたどって最短距離で中央事務室まで向かう。


「できれば暴走させる推進器に寄ってから行きたいんだがなぁ。」


中央事務室までの経路を知っているだけに通津はぼやく。


「暴走のプログラムをしてもフォッシオのメンバーが恐らく修正してしまうでしょう。なので彼女達との接触ができない限りは無駄になりますね。」


ミカミが冷静に分析をして”寄り道”が効率的でないことを教えてくれる。

しかし本当に通信チャンネルが閉じられてしまうと何もできないのだな。


丁度地図に無い”横穴”の間を通る際に警告音が外から聞こえてきた。

”外”からの警告音に驚く。

これまでは全てヘルメット内からの警告だったからだ。


驚いた俺の事に気づいた通津が解説する。


「ああ、ここはまだ通信設備が付けられてねーんですよ。通信設備がないところはこうしてアナログな警報設備で代用しているんで。まぁ、しっかり基礎は出来てるんで崩落したりはしねーですよ。」


どうやら注意喚起のために一応警報が鳴り、それを察知した”横穴”付近のセンサー類が通路付近への警告を発するという事らしい。


なるほどね。

地図に無い場所なだけに完成するまではアナログ的な手法も使われてるのか。

ん?まてよ?

それなら留依たちフォッシオのメンバーにもこのアナログな警報でこちらからアプローチできるのでは?


「ちょっと聞きたいんだが、こうしたアナログな警報設備は中央事務室までつながってたりしないのか?」

「!……警報の作動と同時に中央事務室だけじゃねぇ、各管理施設にも連動して通知されるはずだ!」

「つまり今の時点でフォッシオには通知が行っていると!ミカミ!」

「ハイ!全ての通信チャンネルで試します。」


そう、留依たちは今資源衛星上に存在しているのは俺を含むフォッシオのメンバーだけだと思ってる。

つまり……警報が鳴ったとイコールで俺の生存だと考えるはず。

ならば、通信チャンネルを開く。

絶対に。


その結果はすぐに来た。


「伶旺様!」


半分悲鳴のような留依の声が大音量で聞こえてきた。


「みんな無事か?」

『ぶじでず……。れ、おざま…も……。』


泣いているのだろう声が完全に聞き取れない。


「落ち着いてくれ。俺は無事だ。さらに今すぐに大切な事を伝えるからミカミと司令部の話をしっかりと聞いてくれ。」


そうして留依を含むフォッシオメンバーにミカミとそしてお説教を含めた司令部からの命令と作戦が伝えられた。


「事は急ぐ。中央事務室の調整はそのまま育波が担当。瑠亜と通津はそれぞれ暴走させる推進器へ向かい暴走の準備を。留依は俺と一緒に支柱の切断時にズレてしまった補助推進器の修正だ。」

『了解っス!』

『わかりました。』

『わかりました。ぐすっ。』

「まかせろ!」

「あの、ワタクシは?」

「ミカミは全員がスムーズに作業ができるようしっかりとサポートしてくれ。」

「かしこまりました。」

「今すぐ行動開始!ああ、留依は俺が到着するまでその場で待機していてくれ。」


そして通津とはここでいったん別れる事にする。

その方が効率がいい。

通津はこのまま暴走させる推進器へと向かい、俺は中央事務室へと走って向かう。

走ると言っても防護服の機能を使った全力だ。

ちょっとした船位のスピードで走ることだって可能だ。


「それじゃ通津頼んだぞ!」

「任された!」


そう言って飛んでいる船の扉を開け飛び出す。

そのまま床を蹴って少しだけ通津の操船する船と並走してから分かれ道を別々の方向へと進んでいく。


防護服のヘルメット内にはミカミが設定してくれたナビゲートリンクが表示され中央事務室へ向かう最短ルートが示されていた。

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