第24話
資源衛星のウィリデへの落下を阻止できるかは現状不明ながら最善を尽くすために行動を開始する。
まずはウィリデへの落下コースに入ってからでも資源衛星から脱出できるようにするための耐衝撃シールドを確保しなければならない。
最も近い耐衝撃シールドの保管してあるDS20待避所へ向かう事になった。
連絡艇は集積所からつながる資源衛星の内部へと入っていく。
元々この辺りは掘削された資源が運び出される場所だけあってかなり広くしっかりと重力制御もされており、現在資源衛星が回転している事すら感じない。
「資源衛星の内部は崩壊しないようにかなり堅牢な作りになっていてな。重力制御も使っているからちょっとやそっとの事じゃ崩壊なんてしねぇのよ!」
通津は上機嫌で操船しながら資源衛星の解説をしている。
普段はこの巨大な通路をこれまた巨大なトレーラーが行き交っているらしい。
改めて通路内を見れば巨大なトレーラーがあちらこちらに放置されている。
通津の運転する連絡艇は放置されているトレーラーを避けつつスムーズに通路を進んでいく。
「そういえば、資源衛星の重力を維持している動力ってどうなってるんだ?。」
「ああ、あっちこっちに発電施設があってなそこから電力供給がされてるんだ。基本的に電力が途切れることはねーぜ。」
「非常事態でも?」
「もちろんだ。つーかよ、むしろ非常時こそ誰も居なくても電力供給されないと困るのよ。事故なりの要因を排除してすぐに立て直すには動力源が必要ってわけさ。資源衛星は移民艦隊の命綱だから、迅速な復旧が必要ってわけだ。」
どうやら今現在ほぼ無人の資源衛星でもしっかりと重力制御がなされてるのはそういったことらしい。
「まぁ、今は自動対応だけされてるみたいだけどな。」
なるほど。
トレーラーが放置されているのは自動対応で無人のトレーラーは停止されたが、AIが担当していたトレーラーの収拾はされなかったってところか。
そうこうしているうちに連絡艇はこれまでしっかりと整備されていた通路とは違う所々岩石のむき出しの場所へと到達した。
「さてこっからだぜ。」
これまでの通路のように壁面の補強はされていないが一応通路には見えるような場所だ。
それまでの通路では主に物資の運搬に使われるトレーラーを中心に見かけたが、この辺りでは見たこともない作業機械を多数見かける。
中には小型船で見た溶断装置もあった。
「掘削の現場はこんな感じなのか……。」
「まだこの辺りはあんまり作業してない所だぜ。思ったほど質が良く無くてな、もっと奥に行く事になったんだ。」
資源衛星を厳選する際にある程度の含有物の調査が行われるのだが、質に関しては期待通りになるとは限らない。
もっとも場合によっては期待以上の質や量が出ることもあるらしいが。
「でだ。ここを……。」
脇に巨大なシャッターが取り付けられている。
「このシャッターの記録は無いようですが?」
「記録に乗せてねーからな。当然だ。」
「担当AIはこれを許しているんですか?!」
ミカミが信じられないという声を上げる。
「ああ、つーかこういうのは大抵AIの方からの提案だな。」
通津はシャッターを開きつつ答える。
「なんですと!」
「こうした”横穴”はな、緊急時の退避路にもなるし、機材や人手の融通にもつかえるわけだ。」
資源衛星の掘削は───特に3番艦の資源衛星のように巨大なものは───複数の企業がそれぞれに独立して行われている。
その際に言ってみれば協力体制のような形でこうした”横穴”が作られることが多いそうだ。
なぜこれらが記録上に残されないように行われるのかと言えば、各企業ごとに採掘可能距離というのが設定されており、これを超える範囲の採掘ができないことになってるためだ。
乱掘を抑制するものなのだが、実はこの採掘可能距離は掘削に必要になる、例えば退避路なども含まれてしまうのだ。
退避路まで含んだ採掘可能距離で採掘すると今度は必要量の採掘ができなくなってしまう。
このため各企業は合同でこの決まりの改正を求めているものの、不正の温床となりえるという事で許可されないまま今日まで来てしまっていたのだ。
当然こうした実情を把握しているAIはむしろ積極的に記録に残さない手法で掘削を行っているとのことだ。
記録には残していないが、資源衛星内のAI間での情報共有はなされているので問題は無かったらしい。
もっとも、AIが退避してしまっている現在は通津の記憶のみが頼りになっているのだが。
「中でもソングバードっていうAIは凄かったぞ~!いざという時の退避路になるんだからドンドン作りましょ!ってな感じでな!鳥っぽい見た目の実体AIでいい奴だったな!」
通津はがははと笑いながらソングバードというAIについて話してくれると、ミカミがそれに反応する。
「なんと!ソングバードさんですか!彼女は以前上皇陛下がご視察された際にその案内をした方ですね。」
「ああ、あのAIか!」
俺も思い出した。
大抵の実体AIは普通の人間っぽい外見か一目で機械と分かるいわゆるロボット的な外見を持つ体を選ぶのだが、彼女はその名を表すかのように鳥を模した外見の体を持っていたのだ。
後から聞いた話によると、彼女は遥かな過去に炭鉱などで鳥を使った危険の探知を行っていた事を知り、自分もそのような人々に奉仕できる存在になりたいと願いその体を選んだのだとか。
そうした彼女の性質を考えれば退避路とも使える横穴はドンドン作ろうとなるかもしれない。
その後横穴を進む間ソングバードさんの話で盛り上がることになった。
連絡艇はシャッターを通り、長い横穴を進んでいく。
流石に運搬用通路のような運搬用トラムの路線などは整備はされていないが言われなければここが地図に無い”横穴”であるとは分からない程度にはしっかりと整備されている。
隣の坑道までは距離があり、ようやく横穴を抜けると再び運搬用トラムなどがしっかりと整備された通路へと出る。
「これは!なるほど、なるほど!ここへ出るわけですか!確かにこれなら早いですね。」
感心したようにミカミが感想を述べる。
「だろ?こっからはちゃんと記録に残ってるルートだな。」
通路を進み、幾度かの角を曲がり資源衛星の表面近くのDS20退避所へと到着した。
退避所は通路の出口、大型の船の出入りを想定した大きな港になっていた。その港の管制室と併設された待避所内は様々な機材が散乱していた。
「あーやっぱりな。」
「何がやっぱりなんだ?」
「資源衛星からの退避の際に安全を確保できそうなもんを適当に船に取り付けて大急ぎで退避したんだろうさ。」
なるほど、待避所以外も主に小さな船が様々な方向を向いてまさに放置と呼ぶにふさわしい形で停泊している。
「俺はN方面で作業してたからこっちがどうだったか知らねぇが、目が見えるやつが少なかったんじゃねぇかな。港だしな。」
「元々直視装置の使用者はとても少なかったのですから仕方ないのではないでしょうか?」
「いや、直視装置以外でも見えたんだ。要は脳直で映像が見れればいいんだからな。」
「あ、そうか!センサー類の機器なら完全ではなくても”見る”事は出来るのか!」
「そうだぜ。ここは直接”目”を通さずに”見る”事の出来るやつが沢山いるからな。」
「だから作業者の数にのかかわらず迅速な退避ができたのか。」
「まぁ、俺は最後の最後に宇宙に投げ出されちまったがな。」
そしてそこそこ広い待避所内で耐衝撃シールドを無事見つけることができた。
「それじゃ俺は運び出せるように周りを片付ける。通津は耐衝撃シールドを適当な船に乗せて出発できるよう準備してくれ。」
「おう!」
「ミカミは先ほどの横穴を含めた育波少尉たちの居る場所までのルートを設定だ。」
「承知いたしました。」
通津は耐衝撃シールド運搬の準備をしつつ言う。
「これが済んだら資源衛星の落下阻止をしてもらうからな!このまま退避とかは認めねーぞ!」
「分かってる。」
「そうは言いますが、資源衛星は現在回転しております。それを資源衛星の256カ所に配置されている補助推進器を連動させ、回転の計算をしつつ軌道を変えるなどという事はAI抜きでは不可能だと思われます。」
「それでもやるんだ!」
通津も頑なになってきているな。
これ以上何を言っても無駄だと思い話題を変える。
「で、留依たちとの連絡は……。」
「未だつながりません。」
「そうか。完全に自分たちだけで行うつもりか。」
しばし彼女たちの事を思う。
彼女たちがどういう気持ちで今いるのか。
他との通信を拒絶してまで。
あの時、3番艦との接続が切れ、支柱の切断の衝撃で船ごと飛ばされ、その後さらに3番艦の消失の余波で飛ばされた……そのことが彼女たちを頑なにしているのだろうか。
しばし飛ばされた時の事を思い返していたが、そこである事を閃いた。
これは……もしかして?
「ミカミ、ちょっといいか?」
「なんでしょうか。」
「取り急ぎ司令部に聞いてほしい事がある。」
これはあくまで素人考えではある。だが可能性はあるのではないかと思うのだ。
「3番艦の回転は支柱切り離しの際の衝撃で回転が収まった。ならば……この資源衛星の補助推進器のいくつかを無理やり暴走させることで回転を止めることが可能なのでは?」
「な!?」
通津が驚きの声を上げるが俺はそのまま話を続ける。
「ウィリデへの落下コースから資源衛星を逸らすためには推力の一定方向への集中が必要なのにも関わらず資源衛星が回転していることによってそれができない事だ。つまり……」
「回転を止めるための時間を省くことができるってことか!」
「そうだ。資源衛星の推進器はあくまで補助のものだ。回転を止めるにはかなりの時間がかかってしまう。この回転の停止を省けば一定方向へ推進力をより長時間かけることができるようになる。」
「確かにそれなら何とか……なるのか……?」
「ミカミ司令部へと問い合わせてみてくれ。」
「少々お待ちください。確認を取ります。」
ミカミは司令部へと確認の通信をする。
が、しばらくたっても返答がない。
やはり素人考えではダメだったのか?
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