第23話
「ならよぅ……俺たちがそのAIの代わりをしてやろうじゃねぇか!!!」
通津さんのその声はまさに咆哮のようだった。
彼にとってこの資源衛星は彼自身の全てだったのかもしれない。
仲間も失い、3番艦という帰る場所もなくなった彼にとって資源衛星まで失われるのは耐えられない事だろう。
とはいえ、人間がAIの代わりというのは実はかなり難しい。
「「それはかなり難しいと思います。」」
司令部のオペレーターとミカミがハモった。
「やってみなきゃ分からねぇだろうが!やってもみねぇで諦められるか!」
「気持ちはわかりますが、AIは極めて高速に計算と情報の精査を行って判断しているのです。単純に人間が肩代わりできるような事ではないんです。」
オペラーターさんが通津さんを必死に説得するが通津さんは全く譲る様子が無い。
「伶旺様。資源衛星からの退避の準備をする必要があります。」
オペレーターと通津さんのやり取りを横目にミカミが話しかけてきた。
「確かにそうだ。俺たち自身の安全も確保しないといけないな。小型船の方は大丈夫なのか?」
「ウィリデの重力離脱可能圏内にいる間なら問題なく離脱可能ですが、それを超えてしまうと船の仕様上大気圏への突入は出来ません。」
「ウィリデの落下制御にどれだけ時間がかかるかが問題か。」
「ハイ。万が一に備え大気圏突入に耐えうる船の確保もしておくべきかと。」
「ウィリデ内の安全な場所でやり過ごすというのは……。」
「オススメできませんね。衝撃で資源衛星自体が衝撃でバラバラに砕け散ると思われます。」
これは厄介なことになってきた。
そもそも資源衛星に大気圏突入に耐えうるような船が無い可能性が高いのだ。
宇宙空間での運用が前提の資源衛星で”大気圏突入に耐えうる船”なんてものは邪魔以外の何物でもない。
「育波さん達はこのことを分かってるのかな。」
「お伝えしてあります。ですが、彼女たちは資源衛星の落下の阻止を優先してこちらの言葉に耳を傾けてくれないのです。」
「え?それはどういうことだ?」
確かに先ほどのオペレーターとの会話で少しの違和感はあった。
オペレーターは育波さん達は軌道の修正に行っていると言っていた。
俺はてっきりウィリデの海辺りに落ちるよう軌道の修正をしているのだろうと思っていたのだが、どうやら資源衛星自体の落下を阻止しようとしているようだ。
「伶旺様の行方が分からなかったからではないでしょうか。」
「え?俺が原因?」
「ハイ。伶旺様が宇宙へと投げ出され、そのまま資源衛星の近くを漂っていると考えていると思われます。」
「つまり、資源衛星の落下とイコールで俺のウィリデへの落下と考えているわけか。逆に言えば資源衛星の落下を阻止すれば俺も生きているだろう、と。」
「その通りです。何度も説得したのですが、最後にはこちらとの通信を切られてしまいました。」
そんなに
留依はともかく育波さんあたりはその辺り居なくなったら仕方ないとか言いそうだけどな。
とはいえ実際の問題としてこのままでは資源衛星が海などの被害の少ない場所への制御もできず、さらには留依たちの命すら失うことになりかねない。
早急に彼女たちと話をして説得しないと。
……で、こっちもか。
俺とミカミが話をしている横で通津さんとオペレーターさんが未だ揉めている。
「だから分からねぇやつだな!俺の事はいいんだよ!最後までできる事をやらせろって!」
「何度も言いますが、無理を言わないでください!優秀なエンジニアを失うわけにはいかないんです!誰一人として失うわけにはいかないんです!」
平行線のようだ。
「ちょっといいですか?」
「なんだよ!」
「なんですか!」
「あっと、聞きたいんですけど、この資源衛星に大気圏突入できる船ってあるんですかね?それがあれば通津さんもギリギリまでは出来ますし、人的被害も出さずに済むんじゃないですかね?」
「「……………。」」
「それだ!それなら文句ねぇだろ!」
「……わかりました。それで妥協します。」
「伶旺様ありがとうな!」
そういって通津さんは俺の肩をバンバン叩く。
力が強くて防護服のシールドがガンガン鳴る。
「こちらで検索したところ大気圏突入可能の船自体はありませんが、非常用の耐衝撃シールド装置を使用すれば問題なさそうです。」
「ナルホド!バリュートっていうやつですね。」
「ばりゅーと?」
なんだバリュートって?
そんな装備聞いたことないぞ。
「エエ、上皇陛下が時々話してくださる話の中にそういったモノがありまして。なんでも記憶の中の創作物の中で巨大人型ロボットが大気圏突入時に使用するという事です。」
ミカミが得意げに解説するが創作物の話かよ!
しかも上皇陛下の前世の話。
黒毛の方々の記憶は値千金の事ではあるのだが、今この場で語る事だろうか?
「上皇陛下の”記憶”ですかい!流石黒毛の方はスゲーですな。」
通津さんも感心している。
現在の黒毛は上皇陛下しか存在を確認されていないから、そりゃ新鮮な話題だろうけど……。
「いや、まて。今はそういった話をしている場合じゃない。今は一刻も早く耐衝撃シールドの確保をして留依たちと合流しないと!」
「おう!確かにそうだ。ミカミっていうの!あとでじっくり聞かせてくれよ!」
「ハイ!もちろんです!上皇陛下のこうした”記憶”の記録もワタクシの大切な役割の一つでありますから!」
ミカミと通津さんが親交を深めている間にオペレーターが耐衝撃シールドの保管されているここから最も近い場所までのルートを送ってくれた。
場所は”DS20退避所”、資源衛星の裏側、つまり3番艦から最も遠い場所だったところだ。
何らかの事態が起きた際に艦から近ければ艦へと退避できるが遠いとそういうわけにもいかず、また資源衛星上の施設等にも被害が及ばないように耐衝撃シールドなどが常備されているのだ。
「それから……ですね、朝日蔵様をリーダーとして正式にチームとなるよう通達がありました。」
「……え?今?」
「少し前から通達は出ていたのですがお伝えする機会がありませんでしたので……。」
「あ、はい。」
確かに。
そんな時間なかったものな。
「朝日蔵様を隊長とし、指揮下に
……もしかして育波さん知ってたんじゃ?
知ってて黙ってそうだよなぁ。
「そして、部隊名はフォッシオです。」
「了解しました。それでは早速耐衝撃シールドの確保に向かいます。」
「どうかお気をつけて。」
「はい。」
「おうよ!隊長よろしく頼むぜ!あんたが隊長だから呼び捨てでいいぜ!」
「……分かった。」
正直年上を呼び捨てってちょっと気が引けるんだよな。
それが決まりなのはわかってるんだけど。
できるなら離脱可能限界までにすべてを終らせたい。
まだ数時間あるとはいえ、やらなければならない事はおおい。
留依たちと合流し、さらに資源衛星の落下阻止も可能な限り進めたい。
今は動こう。
「さあ、通津、船の操船はできるよね?」
「もちろんだ!そうだな……あの連絡艇でいいだろう。足も速い。」
「お待ちください。それでは資源衛星表面上を重力制御の吸着で進むには力不足なのでは?」
「いや、わざわざ資源衛星の表面を移動する必要はないさ!中を通って行けばいい。」
「そんなルートはありませんが?」
「いやある。掘削作業の最中で通路という識別になっていないだけで、内部ではつながっている場所も多いからな。」
ミカミと通津はやり取りをしながら連絡艇まで移動する。
「なるほど!しかし、迷ったり事故になったりする可能性は?」
「無いとは言えないが、まぁ大丈夫だろ!」
「ではワタクシの方で迷子や事故にならないようしっかりとフォローいたしましょう。」
「おう!頼んだぜ!耐衝撃シールドさえ確保出来りゃあとは衛星の軌道修正だからな!急ぐぜ!」
話している間に連絡艇へと着く。
連絡艇は全長5mほど、本当に数名の人間が移動する事だけを考えた船だ。
とはいえ最低限のシールド機能、重力制御は付いている。
育波さんのところの作業船のような牽引機能はないが。
その連絡艇では通津が自信満々で操縦席に座り、俺はその横のシートに座る。
役職柄、仕事柄操船免許が必要なかった上、各方面からも免許取得にいい顔をされなかったから持たなかったが、この件がひと段落したら絶対に中型くらいまでの操船免許を取ろう。
そんな事を考えつつ出発の合図をする。
「それじゃ出発だ。ミカミ、一応留依たちの方へ定期的に通信を送ってみてくれ。繋がったら報告を。」
「承知いたしました。」
「頼んだぞ。それでは行こう!場所は資源衛星の裏側、DS20退避所だ。」
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