第22話
資源衛星の上方の宇宙空間をしばらく流されながら、なんとか通信だけでもできないかと試すが未だ復旧してくれない。
気づけば資源衛星の構造物よりも高い位置で流されているので今の所何かにぶつかるような事はないのだが、どうも資源衛星から離れていっている気がする。
何度も通信の復旧を試みる中でふと資源衛星からの退避する際に宇宙空間へと投げ出された作業員たちの事を思い出す。
彼らは無事なのだろうか?
先ほどの3番艦の消失に巻き込まれたりはしていないのだろうか。
位置情報は司令部が把握しているという事だったのであまり心配はしていなかったのだが、そもそも彼らは恐らく目が見えず、通信のみでいるはずだ。
そして今の俺は彼らとほぼ同じ状況にある。
もっとも俺は直視装置で周りを見ることができる分多少マシではあるのだが。
それでも俺自身はこの状況の中でも落ち着いていると思える。
3番艦の消失した時の衝撃時には命の危険も感じたが、今はそうでもない。
いや、自分自身の命の心配以上に3番艦や資源衛星の事、2番艦などの心配の方が先に立つ。
自覚はあまり無かったが自分も間違いなく皇族であることを実感した。
何よりも人々の安寧が第一なのだ。
このことを──自分自身の本心を──知ることができて良かった。
未だ防護服は生命維持を優先しておりシールド以外の機能は救難信号以外ほぼ無い状態だ。
手動で生命維持機能を解除して通常機能に戻せないのはもどかしい。
危機的状況では正常な判断ができないという事例が多いためにこのような仕様になっているのだろうが……。
突如腕を掴まれた。
!
俺は宇宙空間でひとりで漂っていたにも関わらず、あたりには何も、誰もいないはずの所で腕を掴まれた!
「おい!生きてるか?!」
掴まれた腕を経由して通信が入る。
「な、誰だ!」
突然の事で驚きまともな返事もできなかった。
「生きてるな!見覚えねぇな!お前所属はどこだ?他の船のヤツか?」
掴まれた方を見ると平均的な大きさの男性と思われる掘削作業用の防護服を着た人物がいた。
その声の低さからも相手が男であることが分かった。
「そうです。1番艦から3番艦の資源衛星の切り離しをしに来たんですけど……。さっきの衝撃で飛ばされました。」
「そもそもさっきの衝撃は何だったんだ?」
「分かりません。3番艦が消えたとという事は確かなんですけど。」
「クソッ!やっぱり見間違いじゃねぇか……。どうなってるんだ!」
俺の腕を掴んできた男性はどうやら何が起きたのか分からず混乱しているようだ。
もっとも、俺も3番艦が突如消えその衝撃で吹き飛ばされたらしいとしか分からないのだが。
「資源衛星からの退避途中で宇宙に飛ばされた人ですよね?」
「ああ、宇宙に吹き飛ばされた後も他の奴等を誘導してたんだが、さっきの衝撃でこのザマよ。司令部のヤツらとも通信が切れちまってな、それまでいた仲間の奴らを探していたらアンタを見つけたってわけだ。」
「司令部がしっかりと追跡しているはずです。まずは通信の確立をしましょう。」
「なら資源衛星の通信施設に行ってみるか?すぐ近くにあるはずだ。」
「そうしましょう。通信施設なら通じるかもしれませんし、そもそも私の防護服はまだ生命維持状態でまともに動けないんですが、引っ張って行ってくれるとありがたいです。」
「しょうがねぇなぁ。いいぜ。そうそう、俺は
「俺は
「れお?苗字か?変わった名前だな。」
「苗字は無いので名前です。」
「……え?あ、マジか?!あーえっと済まねぇ……あー違う、まぁ……なんだ……。」
俺の素性に思い当たったようで通津さんはしどろもどろになってしまった。
「先ほどまでと同じ感じでよいですよ?」
「そ、そうですか……ありがてぇ!そんな偉い人と話す事なんてないと思っててよ!」
「まずは通信施設へと向かいましょう。」
こうして通津さんに手を引かれて近くの通信施設へと向かう。
通信施設には入ると防護服の生命維持状態が解除された。
安全な場所へ移動したと認識されたのだろう。
通津さんに礼を言ってまずは司令部との通信を試みる。
留依たちの方は俺の事を心配はしているだろうが、彼女達自身は安全のはず。
なのでその身の安全が不安視される宇宙へと飛ばされた人たちの捜索を優先する。
司令部への通信を試すと同時に通津さんには付近の漂流物の精査をしてもらう。
この通信施設で補足できればすぐにでも保護できるからだ。
「ちっ!どれもこれもデブリばっかだぜ!そもそもどこに飛ばされたのかも分からねぇ!」
「焦らないでください。防護服の生命維持が有効になっている限り無事なはずです。」
防護服の生命維持機能は本当に優秀で、精神的な負担すら軽減するために投薬や眠らせるような措置も行ったりもする。
宇宙を漂っている人達も防護服の生命維持プログラムによって眠らされ、俺たちの救助を待っているかもしれない。
「AIのやつらが居ねぇとこんなに厄介なのかよ!」
「こちらは通信の再接続の自動設定をしました。つながれば返答があるはずです。」
「おう!こっちを手伝ってくれ!」
「闇雲にやるよりもまずは範囲を絞って確認をしていきましょう。」
通津さんと手分けをして資源衛星の周りに散らばる岩石等の膨大な数のデブリから宇宙へ投げ出された作業員を探す。
しかし全く見つけられない。
そもそも資源衛星は回転したままなのだ。
デブリの位置も常に変わっている。
どれだけの時間が経っただろうか。
デブリの中から作業員を探す作業に徒労感が出始めたころ……。
「こちら司令部。資源衛星S3西集積所応答してください。」
きた!
司令部との通信が回復した。
自分が今いる場所がS3西集積所であることも司令部からの応答で初めて意識した。
「こちら伶旺!やっとつながった!」
「ふー……よかった……。ご無事でしたか!」
「3番艦が消失し、その衝撃で漂流することになったのですが、通津という作業員に助けられてこの集積所へと来ることができました。」
「3番艦に関してはこちらでも確認しています……。こちらでも混乱しています。AIが議論を始めていますがすぐに結論は出ないと思われます。」
「……でしょうね。それと至急確認をお願いしたいのですが、宇宙に投げ出された作業員の位置は把握していますか?」
「……それなのですが……全員の位置情報の消失を確認しています。」
!
「ちょ、ちょっとまて!全員死んだって事か?!」
「い、いえ、3番艦の消失と一緒に消えたので……。」
「3番艦と一緒にどこかへ消えたって事か?」
「少なくともこちらではそう解釈しています。」
「ク……。分かった。」
通津さんにはなんと声を掛けたらよいか分からなかった。
恐らく長く一緒に仕事していた仲間だろう、しかも消えた後どうなっているのか全く分からないのだ。
そのあとしばらく通津さんは押し黙ったままだった。
「小型船との通信はどうでしょうか?」
「そちらの方はすでに回復していたのですが……伶旺様の無事をお伝えできておりません。」
「そうですか。通信障害か!無事なら良いか。それで、ミカミも無事ですか?」
「ええ、無事ですが……伶旺様との通信が途絶えてから実体を持とうと許可申請を出していますが、すぐには出せませんのでその事で抗議をしていますね。」
アイツAIなのにそんなに冷静さを失ってどうする。
「えーと、ミカミに実体はいいから早く俺のサポートに来いって伝えてもらえますか?」
「あ、はい。」
司令部のオペレーターも少しあきれた感じだったな。
AIがそこまで冷静さを失うっていうのも珍しいしな。
「伶旺様!ワタクシとても心配しましたのですよ!なぜもっとはやく帰ってきてくれなかったのですか!だいたい……」
「まて!これでも最速で通信回復したんだからな!まずは今後の方針を決めるからすこし黙っててくれ!」
永延と話し始めたミカミを制止させ、オペレーターに資源衛星の現状を聞く。
「資源衛星は非常に危うい状態ですね。」
「もしかして先ほどの衝撃で軌道が変わった……?」
「その通りです。このままではウィリデに落ちます。ですので現在育波少尉たちが軌道を変更すべく制御室へと向かっています。」
「……どうにかできそうなのですか?」
「難しいですね。せいぜいウィリデの何もないところ……海などに落下させるのがせいぜいでしょうか……。せめて3番艦のAI達が居てくれればもう少しできる事もあったのですが……。殆どのAIは3番艦に退避していましたし、そもそもその3番艦が消失してしまっていますし……。」
さらに付け加えればもし3番艦が存在していてもAIは未だ沈黙していた事だろう。
2番艦のAIも復活していないのだ。
順番でいえば2番艦のAIが復活してからだったことだろう。
「……ならよぅ……俺たちがAIの代わりにやってやろうじゃねぇか!」
先ほどまで押し黙っていた通津さんが地に響くような声でやる気をみなぎらせていた。
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